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王者に逆転され…その時、キャプテン立川は何を“強調”した? スピアーズ就任8年“ママチャリに乗る”ルディケHCも誇った「ブラザーフッド」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/05/22 17:03
リーグワン2022-23のプレーオフ決勝を制したクボタスピアーズ船橋・東京ベイ。国立競技場には4万人以上が駆けつけた
さてスピアーズだが、2010年代に日本のラグビー界をリードしてきた東京サントリーサンゴリアスを準決勝で退け、そして決勝でついに王者ワイルドナイツを下したのだから、喜びはひとしおだろう。
スピアーズはその愚直さ、真面目さ、誠実さ(時として、相手にお付き合いしてしまう人の良さ)をもって、頂点にたどり着いた。
南アフリカ出身のフラン・ルディケ・ヘッドコーチ(HC)が2016年に就任し、足かけ8年でチームを優勝に導いたことになる。これだけ長い間、指導の一貫性が保たれたのは、世界はもちろん、日本でも珍しい。それだけ会社側も腰を据えていたし、優しかったとも言える。
私の取材経験でいえば、船橋のグラウンドでスタッフ、選手たちの話を聞くと、「愛さずにはいられないキャラ」がそろっていた。
記者会見でも、立川、ルディケHCからは「カルチャー」「文化」という言葉が再三聞かれた。ルディケHCは世界の一流選手がスピアーズのカルチャーを形成してくれたと喜ぶ。
「オーストラリア代表のバーナード・フォーリー、オールブラックスのライアン・クロッティ、南アフリカのマルコム・マークス、そして日本のハル(立川理道)にラピース(ピーター・ラブスカフニ)。スピアーズには、世界的にも経験豊富な選手たちがいて、彼らが率先してカルチャーを作り上げてくれました。結果として『ブラザーフッド』、時間をかけて同朋意識が醸成されたのです」
プライベートでは、ルディケHCは10歳の三つ子の父親でもある。
「子どもが小さいうちは、みんなが起き出す前に仕事を始めないといけません。起きてしまったら、そこはブレイクダウンの現場のようなものですから(笑)。だから、真夜中といってもいい3時に起きて、考えをまとめていました」
取材が終わって、練習場がある工場構内でタクシーが来るのを待っていると、ルディケHCが颯爽と帰っていった。ママチャリで!
その日の姿は、いまも忘れられない。
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