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王者に逆転され…その時、キャプテン立川は何を“強調”した? スピアーズ就任8年“ママチャリに乗る”ルディケHCも誇った「ブラザーフッド」
posted2023/05/22 17:03
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Kiichi Matsumoto
ファイナルの勝敗の分岐点は、ラスト15分に集約されていた。
前半は9対3と、堅実にPGを重ねたクボタスピアーズ船橋・東京ベイがリード。
それでも、埼玉パナソニックワイルドナイツのこれまでの戦いぶりを見ていると、前半はリードを許していても、後半で逆転するのが「十八番」、おはこである。そして後半25分、WTB長田智希のトライで15対12と試合をひっくり返す。
前半から再三再四、決定機でミスを連発していたワイルドナイツが、ようやく本領を発揮したのである。
ひとたび逆転すれば、相手は罠に嵌まる。もう一度、試合をひっくり返すためにリスクの高いプレーを選択し始めるのだ。すると、ワイルドナイツの統率の取れた防御網に引っ掛かり、点差はどんどん開いていく。
しかし、この日のスピアーズだけは違った。逆転されたあとのハドルで、キャプテンの立川理道はこう考えていた。
「逆転されましたけど、時間はまだ15分残っていると思いました。リードを奪われたら、無理に戦術を変更してボールを展開してビッグゲインを狙っていく選択肢もあります。でも、他のチームがそうやって点差を広げられてしまうことはありました」
王者撃破のカギになった“ブレずに蹴る”
この日、スピアーズはキッキング・ゲームを戦術の柱に据えていた。
「それまでキックを中心にしていい形でゲームをコントロールできていたので、このままキックでプレッシャーをかけていく、それを継続していくことを確認しました。逆転されたからこそ、全員が同じ絵を見ることが大切だと思って、それは強調しましたね」
英語でいえば、on the same page、全員がテキストブックの同じページを開いていることが大切だ。スピアーズはブレずに、蹴った。
そして直後に敵陣にコンテストキックを上げると、WTB根塚洸雅とNo.8ファウルア・マキシがワイルドナイツのFB野口竜司との競り合いに勝ってボールを確保する。
その瞬間、左サイドには大きなスペースがあり、数的優位が確立されていた。そしてパスを受けたのは立川だった。