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メジャーリーグPRESSBACK NUMBER
「野茂に何かがある」メジャー戦力外の予兆…15年前、なぜ野茂英雄は“ひっそりと引退”を選んだのか「すでにロッカーは空っぽだった」
text by
水次祥子Shoko Mizutsugi
photograph byJIJI PRESS
posted2023/05/18 11:03
「空白の2年間」を経て、3年ぶりにメジャー昇格を果たした野茂英雄。2度目の登板も打たれ、4失点で降板した
「何とも言えないですね。何も言えないです。ホームランを打たれた球は、甘かったです。それは、はっきりしています」と言って大きなため息をつき「しょうがないです。ゼロに抑えたかったですけどね。打たれているのは甘いボールですからね、それはまあ、しょうがないと思うんですけど(調子的には)特に変わってはいないと思うんですけど」と振り返った。
僅かにお辞儀をしたように見えた
その翌日の試合前、ヒルマン監督がベンチで報道陣に「明日、選手の入れ替えを行う」と明かした。
これはもしかしたら、野茂に何かがあるかもしれない。その場にいた全員に、そんな予感があったはずだ。ふとグラウンドを見ると、野茂は自分の行く末を知ってか知らずか、いつも通り黙々と走り込みをしていた。
試合後、監督会見を終えてクラブハウスの脇にある監督室から出ると、野茂がロッカーの前で着替えを済ませたところだった。目を向けると、微かにお辞儀をしたように見えた。何か言葉を交わしたかったが、何も言うことができないまま外に出た。
それが現役野茂の姿を見た最後の瞬間になった。
翌日、野茂がメジャーの40人枠から外され、事実上の戦力外になったことが球団から発表された。球場に行くと、すでにロッカーは空っぽだった。
ボロボロになるまで…野茂の去り際
トレードマークのトルネードを捨て、自分のこだわりも捨て、登板機会が与えられる限り最後の一瞬までマウンドに立ち続ける。たとえボロボロの結果になっても。それが野茂の選手としての生きざまだった。
ヒルマン監督は最後にこう言った。
「もっと長い期間、チャンスをあげられず申し訳ないと彼に伝えた。もっと時間があれば、メジャーでまだやれると証明できたかもしれない。心残りはあったと思う。だが彼は、とてもプロフェッショナルだった。チャンスを与えてもらったことに、本当に心から感謝していた」
共同通信のインタビューで現役引退を表明したのは、それから3カ月後のことだった。引退会見は開かれていない。野茂らしい最後だった。
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