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大学野球PRESSBACK NUMBER
「二軍すら入れず、酒を飲む日々」部員100人、東大野球部の厳しい現実 「偏差値45から東大合格」そしてドン底に落ち…大学4年間最後に起こった“奇跡”
text by
沼澤典史Norifumi Numazawa
posted2023/05/16 17:02
偏差値45から東大に逆転合格した佐藤有為
残るベンチ入りのチャンスは秋のリーグ戦しかない。秋リーグまでの3カ月間、代打として生き残りをかけるため、同期の学生コーチ奥田隆成(静岡)にバッティングの指導を仰いだという。
「ティーを打ちながら、ここの筋肉をもう少し意識して、という感じの理論的なバッティング指導を受けました。その結果、7月の練習試合で久々にヒットが打てたんです。夏の合宿で行われたうちのピッチャーとの対戦では、ツーベースとセンター前ヒット、8月の双青戦(京都大学との定期戦)でもヒットを打てて、調子が上向いてきました。その甲斐あってか、ようやく秋のリーグ戦の1回戦、明治戦でベンチ入りできました」
4年間、ときには腐りながらもやっと果たしたベンチ入り。あとは、代打として悲願のリーグ戦のバッターボックスに立つのみだが、野球の神様はその機会をなかなか与えてはくれない。
「東大では過去のデータなどから、相手ピッチャーごとに相性のいい代打の優先順位の表、通称『代打早見表』が作られます。例えば、明治の〇〇がピッチャーなら1番手の代打は△△、2番手は佐藤みたいな感じです。でも、ベンチ入りした試合では、僕と相性の良いピッチャーが投げなかった。逆にベンチ入りしていないときに、そのピッチャーが投げる。僕がベンチに入ったときは東大のピッチャーが好投して代打を出せないという試合も多かったです」
大学4年間の最終試合、9回裏「自分、行っていいすか」
4年間のくすぶりを抱えた佐藤にとっては、なんとも歯がゆい時間であった。結局、佐藤がバッターボックスに立つことがないまま、東大野球部は秋の最終試合である法政戦を迎えてしまう。その試合、佐藤はベンチに入っていた。
「試合前に代打早見表を見たのですが、そこに自分と相性がいい投手がいませんでした。でも、その表には法政のベンチに入っていた同期の石田旭昇というピッチャーが載っていませんでした。彼は調子が悪くて、秋リーグでここまで投げていなかったので、東大はノーマークだったんでしょうね。でも、2年生のフレッシュリーグでのタイムリーは、彼から打ったもので、僕にとっては相性がいい投手だったんです。そこで、学生コーチに『石田が表に載ってないけど、あいつが投げたら俺を代打の1番手にしてくれ』と直談判しました。人生最後の頼みごとかもしれない、くらいの意気込みでしたね。もちろん、石田が投げる可能性は極めて低かったと思います」
試合は5対0と法政リードで9回裏、東大の攻撃を迎える。石田以外の投手では、佐藤の出るチャンスはほとんどなかったが、その回からリリーフとして登板したのが石田であった。
「自分、行っていいすか」