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早稲田ラグビーが始めた“6時半の朝練”「部員にヒアリングして」清宮イズムを知る大田尾監督41歳は“今ドキの学生”にどう向き合っている?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/05/10 11:01
早稲田大学ラグビーを率いて3季目を迎える大田尾竜彦監督。昨シーズンの悔しい経験を噛み締めながら、新チームへの自信をのぞかせた
「ヤマハでプレーしていた2009年、強化縮小が発表されたあとのサントリー戦とか……。つらい試合になりましたね。稀に『早く終わってくれないかな……』と思ってしまう試合ってあるんですよ。帝京との決勝戦については、僕の帝京に対する見積もりが甘かったという反省がありました」
その見積もりとは、長期的なものなのか、それとも短期的なものだったのか。
「ショートタームですね。ゲームを作っていくなかで、キックとパスの割合は重要な意味を持ちます。試合中、攻めた方がいいところでも、キックしてしまう場面があったりして、SOの伊藤(大祐)に明確な絵を渡せなかったと反省しています。もともとの設定の段階で、力の差をもっと認識しておくべきでした」
帝京の壁は厚い。早稲田だけではなく、明治、筑波も歯が立たなかった。早稲田のOBからも「リソースが違いすぎる」と嘆息を漏らす向きもある。
しかし、大田尾監督はそれでも前を向く。
「いま、それぞれの大学が学生スポーツに対して様々なアプローチでラグビーを強化しています。その点、早稲田はオールドスタイルなので、どうしても『ないもの』に目を奪われがちなんです」
「早稲田の格ってなんだろう?」
潤沢な強化予算、推薦枠の多寡、充実した栄養指導。早稲田が恵まれていないとは言い切れないが、必ずしもトップではなく、どうしても隣の芝生は青く見えてしまう。それが人間の習性だろう。それでも、「早稲田にしかできないことがある」と大田尾監督は学生から教わったという。
「早稲田では年度の終わりに予餞会が開かれます。そこでは卒業する4年生が一人ずつスピーチするんですが、ロックの前田知暉がこんなことを言っていたんです。『社会人になっても格の違いを見せつけます』って。前田は共同歩調を好まない、ユニークな人材でした。なので、前田の言葉を聞いて、笑っていた人もいたんです。でも、それから2、3日経って前田の言葉がだんだん僕の中で大きくなり、『早稲田の格ってなんだろう?』と考えていくと、まわりを羨むばかりではなく、早稲田にしかできないことにフォーカスすべきだと気づいたんです」
早稲田は「オリジナル」を求めて、100年以上の歴史を紡いできた。
「昔の早稲田は集散の速さとか、こぼれ球への最初の働きかけでは絶対に負けないとか、異常な『執着』を持っていた人が多かった。ラグビーの質は変わったとしても、そうした執着の部分の価値は不変だと思うんです」
不変と変化。それこそが早稲田のコアを成す部分だろう。今季は練習にも大きな変化がある。