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女子アナを辞めたJリーガーの妻…広瀬麻知子さんがあえて「サッカーに入り込まない」家庭空間で河井陽介と歩む理由〈インタビュー〉
text by
間淳Jun Aida
photograph byJ.LEAGUE
posted2023/05/05 11:05
清水エスパルス時代の河井陽介選手と広瀬さん
「夫は子どもと遊ぶ時間が一番リラックスしています。私は、その時間を確保することと、アルフォート(チョコレートのお菓子)のストックを切らさないことを意識しています。夜ご飯の後にアルフォートを1つ食べるのが夫の楽しみみたいなので。私は1つ食べたら止まらなくなりますが、1つでやめられるところはサッカー選手らしく自己管理ができています」
0-8での敗戦後、帰宅した夫にかけた言葉
サッカー選手の妻というと、栄養を細かく管理した食事をSNSにアップし、不甲斐ない試合やプレーをした夫を叱咤激励するイメージがあるかもしれない。しかし、家庭によっては、それがベストとは限らない。広瀬さんと河井選手、2人の関係性を象徴するエピソードがある。
2019年8月17日、清水エスパルスは歴史的な大敗を喫した。ホームで北海道コンサドーレ札幌に0-8。クラブ史上最多失点だった。この5カ月前にアウェイで5失点した相手に再び、好き放題やられていた。ホームの札幌戦で、河井選手はサポーターのブーイングや溜息を浴びながらフル出場。広瀬さんは帰宅した夫に「野球のスコアみたいだったね」とだけ声をかけた。普段と同じように明るく迎える妻に、河井選手は「確かに、そうだね」と笑顔で返した。
人によっては広瀬さんの一言を“不適切”と捉えるかもしれない。しかし、河井選手の心中を痛いほどに察していた。サッカーは野球と違って試合終了時間が計算できる。ホームの試合であれば河井選手の帰宅時間は決まっているが、屈辱的な敗戦後は普段より2時間も遅かった。広瀬さんは回想する。
「夫は以前、車の中で頭や心を整理してから帰宅するようにしていると話していました。1時間経っても2時間経っても帰ってこないのは初めてでしたし、相当な不甲斐なさや悔しさを感じていたはずです。夫が一緒に落ち込んでほしくないタイプなのは分かっています。エスパルスのサポーターの方には誤解されてしまうかもしれませんが、明るく振る舞うことが私にできる唯一の役割だと思っていました」
「あの時を思い出して2人で話す時が」
「しょんないTV」では、広瀬さんは「天然キャラ」、「緻密な計算」などと表現された。個人的な話になるが、私は広瀬さんが静岡朝日テレビを退社する直前の1年間、デスクとして夕方のニュース番組を一緒に担当した。間近で見る広瀬さんは「準備の人」、「心配性」、「気遣い」といった言葉がふさわしい。野球のスコアみたいだったね――広瀬さんが夫の気持ちを想像した上で決めた言葉は間違っていなかった。
「あの時を思い出して2人で話す時が今でもあります。夫からは落ち込んだ時に明るく接してくれる奥さんで良かったと言われます」
サッカー選手の妻に正解はない。夫婦にしか分からない空気感や距離感がある。広瀬麻知子は河井陽介の妻としての理想だけを追っている。
そんな広瀬さんは、岡山の地で河井選手とともに2人の子育てにも奮闘している。「子育ては上手くいかないことの連続で反省ばかりしています」と本人は謙遜するが、どのように育児をしているのだろうか。
<#2につづく>
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。