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《独占インタビュー》イチローが屈指の公立進学校をサプライズ訪問! なぜ高校生を教えるのか?「厳しさは必要です。愛のある厳しさが…」
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph byNaoya Sanuki
posted2023/04/27 17:00
オフの高校野球指導でイチローはなぜ公立進学校2校を選んだのか?”野球を教える”ということについて熱く切実な思いを語った
「文武両道は理想です。僕もそうありたかったけど、まるで叶いませんでした。野球では実際にはほとんどのチームが地方大会の1回戦、2回戦で消えていくわけですから、そういうレベルの野球がどんなものかを知りたい気持ちもありました」
――新宿高校と富士高校でそれぞれ2日間、指導してから少し時間が経ちましたが、今、改めて感じているのはどんなことですか。
「その後、富士高校の子どもたちからは手紙が届きました。興味深かったのは、その手紙の中に『思い出』というワードを書いていた子が1人もいなかったことです」
――それは「いい思い出になりました」といった類いの言葉のことですか。
「思い出で終わらせてしまったら残念だと僕は思っています。じつは2日目の練習が終わったあと、富士高校から色紙の寄せ書きをプレゼントしてもらったんですが、そこには『思い出』というワードがかなりありました。あの色紙は2日目の練習前に準備してくれていたもので、寄せ書きのスペースでは一言しか書けないから仕方がないところもあります。でも2日間を終えて、それなりの想いをつづれる手紙となったら、『思い出』で片づけている子はいなかった。それは嬉しかったですね。手書きの手紙ならではの想いが十分に伝わってきました」
――みんな、手紙にはどんなことを書いてくれていたんですか。
「明確に未来を見据えている子もいましたし、ぼんやりしている子もいました。いずれにしても、多くの生徒が『僕たちは困難に遭遇したとき、最後のノックを受けた瞬間のことを思い出します』『あのノックのことは一生、忘れません』というようなことを記してくれていました」
あのノックを受けて、知らない自分に出会ったのでは
――最後のノックというのは、2日目に行なった“捕り10”(ゴロを10本捕るまで続ける、ただし8本目からは3本続けて捕るまで終わらない)のことですね。
「あのノックは打っている僕もきついんです。使ったのはノック用の軽いバットではなく、試合用のバットで、翌日はまったく動けませんでした」
――結局、富士高校では全員に10本捕るまで、449本ものノックを打ち続けました。