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27歳で引退…Vリーグファイナリストが異例の“社業専念”「遥輝に決めさせたい」相棒セッターが目指した“憧れのコンビ”とは?
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNoriko Yonemushi
posted2023/04/27 11:01
今季限りで現役を引退し、社業に専念するサントリーサンバーズ小野遥輝(左)。日本代表セッター大宅真樹とのコンビでVリーグを制してきたが、3連覇がかかったファイナルで敗れ、惜しくも有終の美を飾ることができなかった
コートにあったのは、言葉とは真逆のガムシャラさ。最初は控えだったが、出番がくると攻めまくる。高い身体能力とスパイクのコース幅の広さを活かし、スピードで相手ブロックを置き去りにしたり、2m級のブロックが目の前にいてもその脇を鋭く抜いて決め、相手を翻弄した。どんな場面でも助走をさぼらず、ブロックでもしつこく食らいつく。普段は物静かだが、コートの中ではギラギラしたエネルギーを全身から発した。
同い年のセッター大宅とは全体練習後に毎日コンビ練習を重ね、あうんの呼吸を築き上げた。2年目の2019-20シーズンからレギュラーに定着し、3、4年目にリーグ連覇に貢献。時折、膝や腰の怪我で離脱することはあったが、コートに戻れば常に全力。「早く社業に行きたい」という気持ちは変わったのではないか、と思っていた。
だが変わっていなかった。昨季中に、今季を最後にすると決めた。山村宏太監督やスタッフ陣の説得にも揺らがなかった。山村監督は振り返る。
「引き止めましたけど、全然聞いてくれなかった(苦笑)。彼は芯がしっかりしているので、自分がこうすると決めたら、誰も考えを変えられない。ご両親もかなり強く引き止めたそうなんですけど。昨年はB代表にも選ばれたので、そういう経験を経て何か変わるかなと思って送り出したんですけど、彼の気持ちは変えることができませんでした」
「普通の生活に対する憧れもあった」
一握りの選手しか立つことができない日本トップのリーグで、3連覇を目指していたチームの中心選手が、なぜ今、社業にこだわるのか。
「単純に『働きたい』という思いを大学時代からずっと持っていました。働くことに憧れがあって、大学では就活もして、その時いろいろな業種を見てさらに興味が湧きました。中学まではサッカー、高校からはバレー漬けの生活をしてきた中で、普通の生活に対する憧れもあった。ずっと練習や試合があって、なかなか周りの人たちと予定が合わないというのがあったので。もう体を休ませたいというのもありました。サッカーをやっていた頃から膝を痛めていたし、他にも故障や疲労を一度リセットしたいという気持ちも大学時代はあって。だから、普通に企業で働く、サラリーマンがいいなと思っていました」