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27歳で引退…Vリーグファイナリストが異例の“社業専念”「遥輝に決めさせたい」相棒セッターが目指した“憧れのコンビ”とは?
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNoriko Yonemushi
posted2023/04/27 11:01
今季限りで現役を引退し、社業に専念するサントリーサンバーズ小野遥輝(左)。日本代表セッター大宅真樹とのコンビでVリーグを制してきたが、3連覇がかかったファイナルで敗れ、惜しくも有終の美を飾ることができなかった
「本当に藤井さんと李さんのコンビはすごく憧れで、目標にしていました。将来的に絶対あの2人を追い抜いてやるという気持ちがあったんですけど……。
代表で一緒にやった時にあの2人を見ていると、僕らみたいに一緒にいることは少なかったんです。たぶん彼らが若い時にいっぱい練習して、作り上げたものがあるからだと思う。藤井さんも『李さんのことは知り尽くしてるから、もうしゃべることはない』みたいに言っていましたね。コンビの精度やスピードといったところで僕らは全然劣っていて、やっぱりあの2人はすごかった。遥輝のイメージで李さんにトスを上げても、高さが全然違ったし、スピードはありえないぐらい速かったですから。高いところに速く持っていくのは難しい。それを考えずにできているのが、本当にすごかったです」
「遥輝に決めさせたい」
小野とのラストシーズンは、「遥輝に決めさせたい」という思いが強すぎて噛み合わない試合もあり、そのたびに「いったん遥輝の引退は忘れよう」と自分に言い聞かせてきた。だがファイナルの前は考えずにいられなかった。ラストゲームを前に、こう語っていた。
「ファイナルのイメージをし始めると、『最後もし遥輝が前衛にいたら上げたい』と思ってしまっている(苦笑)。考えないようにはしているけど、たぶんそれは無理。もしそういう展開がきて、名古屋に読まれていたとしても、僕は、最後上げると思います」
だがその展開はやってこなかった。対策を徹底したWD名古屋のブロックとディグに阻まれ、サントリーの攻撃が思うように決まらない。小野のクイックも4本のうち決まったのは1本。第2セットの途中で交代した。
大宅は苦しんでいた。
「開始直後の1本目からトスの感覚が違っていて。かなり焦って、相手のブロックも見えなくなっていた。3セット目の前に切り替えようと思ったけど、遥輝が外れたので、うわ、と。最後の最後でそうさせてしまった自分を悔やんで……」
セットカウント0-3で敗れ、サントリーの3連覇の夢は断たれた。
最後まで涙を見せなかった理由
試合後、2人は抱き合いながら「ありがとう」「申し訳ない」と互いに言い合った。
小野は「本当に悔しい。なかなか言葉が整理できない」と唇を噛んだ。
それでも大宅への思いを聞くと、言った。
「もちろん感謝が一番です。同期として入って、ここまで試合に出てこられたのは、真樹とのコンビがあったから。自分のプレーを一番理解してもらえたセッターだと思いますし、僕のことを気にかけてくれる存在だったのかなと思っています」
引退する栗山は号泣し、大宅も涙ぐみ、後輩も泣いていたが、小野は涙を見せなかった。
「栗さんの涙を見た時や、他の選手が泣いてくれているのを見て涙が出そうな場面は何度もあったんですけど、プライドというか、ポリシーというか、泣かないようにしたいと思って」
こんな時でも流されない。
名コンビが見られなくなるのはあまりに寂しいが、「営業、頑張ります」という真っ直ぐなまなざしに、エールを送りたい。
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