Jをめぐる冒険BACK NUMBER
「カズに憧れていた」福田正博が今だから明かす30年前の本音…“賞金50万”で買った思い出のヴィトンのバッグ〈Jリーグ前夜の記憶〉
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byNIKKAN SPORT
posted2023/04/24 11:00
三菱重工時代の福田正博。2部リーグでのスタートになったが、そこで出場機会を得たことが後の日本代表選出につながっていく
福田にとって同学年、同じポジョションのカズは、どうしても意識してしまう存在だった。
Jリーグ開幕後に「カズがこれだけの年俸をもらっているんだから、自分もこれだけ欲しい」と主張したこともあった。
「最後まで俺は過剰に意識してたよ。例えば、代表で俺が点を取っても翌日の新聞の一面はカズなんだよ。なかなか受け入れられない、なかなか消化できないものがあった。好き嫌いとか、そんな薄っぺらいもんじゃない。良きライバルなんていう言葉があるけど、そんなきれいなものでもない。いわゆる嫉妬だよね、妬み。仲が悪いわけではないけど、当時、会話がほとんどなかったのも事実だね」
振り返ってみれば、カズへのライバル心が増していったのは、92年にハンス・オフトが日本代表監督となり、福田自身も日本代表と浦和レッズの中心選手となった頃からだった。
「横山さんに抜擢されて、カズがブラジルから帰ってきた頃は、そんな気持ちはなかったな。自分に自信がついてきて、すごく意識するようになった気がする。カズってさあ、俺にないものをすべて持ってる気がするんだよな。それに対する憧れがあったのかもしれない。でも、それも今だから言えることなんだ。若いときは素直になれなかったし、口が裂けても言えない。それを認めてしまっては、やっていけない世界だから」
「カズよりは子どもじゃない(笑)」
昨年、パリ・サンジェルマンが来日し、国立競技場で川崎フロンターレと対戦した際、福田はテレビの仕事でカズと一緒に出演した。
「カズと昔話をして、国立の話とかもして。こんな関係性になるのは、昔じゃちょっと考えられない。お互い歳をとったなと感じながら、なんかいいなあとも感じたな。俺がカズって素敵だなと思うのは、いつも少年のような表情でサッカーをやってるんだよね。ずっと子どもでいられる人って、なかなかいないじゃん。俺もあまり大人じゃないんだけど、カズよりは子どもじゃない(笑)。初めてサッカーと出会ったときの気持ちを今でも持っていて、そのときよりも上手くなりたいと思ってる、って言うんだよ。素敵だと思うな」
Jリーグ開幕を1カ月後に控えた93年4月、アメリカW杯アジア1次予選が開幕する。
神戸で行われたタイとの初戦に日本は1-0で勝利し、悲願のW杯出場に向けてオフトジャパンは好スタートを切った。
その決勝ゴールは、福田のパスをカズが左足で決めたものだった――。
(#2へつづく)
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