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「前沢さん、新球場をつくるんですよね?」ファイターズ番記者の問いに絶句…”幻のスクープ”の全貌「隠し立てはしない。でも書かれるとまずいんだ」 

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鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2023/04/19 06:01

「前沢さん、新球場をつくるんですよね?」ファイターズ番記者の問いに絶句…”幻のスクープ”の全貌「隠し立てはしない。でも書かれるとまずいんだ」<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

2023年から日本ハムファイターズの本拠地となった「エスコンフィールド 北海道」

 関東の大学を卒業すると、日刊スポーツ新聞社の新潟支局に入った。記者として採用され、1年目から現場に出られることになった。だが、そこからはずっと瀬戸際に立たされることになる。入社4年目に支局の統廃合によって新潟支局が閉鎖されることになった。 小さな支局でともに働いてきた人々がそれを機に業界を去っていった。高山も転職を覚悟したが、仕事で出会った東京本社のデスクが北海道本社に引っ張ってくれた。2003年 の冬のことだった。そこで、本拠地を移転したばかりの日本ハムファイターズの番記者を命じられた。高山にとって初めてのプロ野球担当記者であった。

 憧れに身を浸して取材に向かうと、その初日に全国的なスクープを他紙に抜かれた。

『新庄、日本球界復帰。日本ハムに電撃入団』

 メジャーリーグでプレーしていた元阪神タイガースの新庄剛志が北海道を本拠地とすることになった新しいファイターズへ加入するという。すぐに後追いをしなければならなかった。だが、どこを取材すればいいのかすら分からず、追いかけることもできなかった。その後もストーブリーグは連戦連敗だった。記者としての自信は粉々に打ち砕かれた。社内でエースと呼ばれる年長の記者から忘れられない言葉を聞いたのは、その時だった。 

「記者にとっての公式戦はストーブリーグだ。それに勝てない奴は野球記者ではいられなくなる。そして、ストーブリーグの取材は夏のうちに終わるんだ」 

 高山はバットを片手に生きるという可能性を諦めて、記者になる道を選んだ。だから勝たなければならない。さもなくば記者ではいられなくなる。その強迫観念が足を動かした。夏になると張り込みをするようになったのはそれからだった。高山にとってスクープに勝るものはなかった。 

密室の会議室でホワイトボードに書かれた3つの単語

――球団事務所の2階に上がると、前沢はオフィスの奥に進んでいった。フロアでは何人かの職員が机に向かって仕事をしていた。突然入ってきた新聞記者に誰もが驚いた顔をしていた。フロアを突き当たったところに、「ニューヨーク」と札が掲げられたミーティングルームがあり、前沢はそこへ入った。高山は扉の前でひとつ息を吸い込んだ。誰が何と言おうとこのニュースは書かなければならないーーもう一度、そう自分に言い聞かせてから入室した。部屋に入った前沢は窓のブラインドを降ろした。それからドアの鍵を閉めた。会議室は密室となった。顔を強張らせる高山の前で、前沢は壁のホワイトボードに何かを書き始めた。口を開く代わりにマジック・ペンを走らせていった。

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