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「ウワッ!」森友哉が思わず叫んだ…オリックスの“超逸材”山下舜平大20歳のストレートを受けた衝撃「3年前なのに私が思い出す“恐怖感”」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byJIJI PRESS
posted2023/04/14 17:00
4月11日の楽天戦でプロ初勝利を挙げたオリックス山下舜平大(20歳)。2020年ドラフト1位指名で福岡大大濠高から入団、190cm98kg
私がヘタなだけなのだが、その時、右打者の顔のあたりにちょっとふかしたストレートを、ミットの先で受け損なった。その衝撃で曲がってしまった左手中指のいちばんの上の関節は、今も「くの字」のままだ。
山下が投げるのはどれもとんでもないボールだった。それでもヤケクソでミットを構えると、恐怖はスーッと消え去って、歴史に残るようなこんなボールに体を張れる光栄な思いが立ちのぼってくるのだった。
春季キャンプの遠投に話を戻す。テークバックをちょっとコンパクトにしたか。その分、反動が使えなくなっているのに、指先から放たれるボールの生命力はまったく変わっていない。6分か、せいぜい7分の力感から、外野フェンス前の相手に向かって、まっすぐな軌道でグングンと、気持ちよいほど伸びていく。
遠投の相手もドラフト上位で入団した期待の投手なのに、懸命に投げ返しているボールは、ツーバウンドでやっと山下投手のグラブに届く。
その返球が逸れて、こちらの足元に転がって来て、拾いにきた彼がこちらに気づいてくれた。
「あ、すごい久しぶりですね!」
深々と一礼、健康的な汗が頬を流れる。そうだ、あれからもう2年半が過ぎている。
コーチも審判も評論家も…みんな山下の投球を見たい
その後、ブルペンをのぞいてみた。横に10人が並んで投げるここの室内ブルペンは、いつ見ても壮観だ。
抑えの切り札、今季39歳の平野佳寿がもうブルペンに入っている。4年目の左腕エース・宮城大弥が投げる。昨季9勝の左腕・田嶋大樹が投げる。負けるものか!と大型左腕・山崎福也が投げる。28歳でプロ入りして中継ぎの切り札に台頭した阿部翔太が、打席に立つ宗佑磨のひざ元に、快速球をビシビシきめている。
その向こう、ブルペンのいちばん端のレーンで投げる長身と長いリーチ。指から放たれたボールの軌道が見えづらいほどのスピード……「背番号12」だ。
急いで場所を移す。山下舜平大の斜め左後ろに立ち位置を決める。
マウンド直近から見上げる。あらためて、大きいなぁ……と思う。サイズも雄大なのだが、山下はマウンドでの立ち方を知っている。直接ボールを受けた時から感じていた。大きな自分を、さらに大きく見せる立ち方を知っている。それも、投手としての大切な「センス」だ。
ゆったりとした踏み込み。やはり、テークバックは小さくしたようだ。後で聞いたら「ショートアーム」というそうだ。ムダに体が暴れないフォームから、MAX半ばほどの力感の腕の振り。なのに、球道途中から回転が加速度を増すような凄み。
いつの間にか、捕手の後ろに人だかりができている。ユニフォーム姿の指導陣ばかりじゃない。ジャッジの“目”を作りにきている審判員、キャンプ巡りの評論家の方たち……投げ終わった投手仲間まで、その剛球に目を凝らす。
「ウワッ!」叫んだのは森友哉だった
徐々に、熱を帯びる山下舜平大のピッチング。