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「何かがおかしい…」ファイターズ番記者が気づいた新スタジアム建設の”予兆” 極秘計画の存在を記者はなぜ知ったのか? 脳裏に浮かんだある人物の顔
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/04/19 06:00
2023年から日本ハムファイターズの本拠地となった「エスコンフィールドHOKKAIDO」
不祥事か? まず頭に浮かんだのは、球団もしくはチームのスキャンダルだった。スポーツ新聞にとって大きなスクープになるネタであり、プロ野球記者を続けるうちに真っ先に疑う癖がついていた。ただ、それにしてはどうも様子が違った。スキャンダルであれば、もっと現場の選手やスタッフがざわめくはずだった。関係者との雑談の中で何かしら漏れ漂ってくるものがある。人の気配というのはそれだけ正直だ。だが、竹田や他の幹部の姿が見えないだけで、ファイターズを構成するそれ以外の部分はいたって静かだった。
何かがおかしい……。高山はこの日、4本目となるタバコに火をつけた。一瞬の苦味の後に微かな清涼感が鼻を突き抜け、思考が研ぎ澄まされていく。確かに状況的には空振りかもしれない。だが、記者の第六感ともいうべき違和感があった。だから、もう少しだけ張り込みを続けてみることにした。
「社長の姿が見えないんだけど、何しているだろう?」
するとエントランスから誰かが出てきた。顔馴染みの球団職員だった。
「あ、お疲れ様です」
ポロシャツにチノパン姿の職員は高山を見つけると会釈した。
「高山さん、もう張り込みの時期ですか?」
冷やかすように微笑んでいた。その若い球団職員は取材対象ではなかったが、何年もこの球団の取材を続けているうちに、挨拶だけの関係から世間話をするようになり、やがて機密以外のことであれば取材に協力してくれる間柄になっていた。
彼なら何かを知っているかもしれない。高山は訊いてみることにした。
「ここのところ、社長の姿が見えないんだけど、何してるんだろう?」
すると、チノパン姿の職員はきょとんとして「そういえば、そうですね」と頷いた。
「僕も最近、社長を見ていないです」
そう言って高山の顔を見ると、思い出したように踵を返した。
「ちょっと待っててください。幹部のスケジュール表を見てきますから」
職員はわざわざ2階のオフィスへと引き返して、球団内でしか共有されていない日程表を調べてきてくれた。
「わかりましたよ」
再び階段を降りてきた彼は、少し息を弾ませながら言った。
「アメリカに行ってますね。ええと……行き先はニューヨーク、セントルイス、ミネアポリス、それから……」
なぜ、球団社長がアメリカの数都市を巡っているのか?
高山はポケットからノートを取り出すと、彼が口にした都市名をメモした。短い期間でアメリカの数都市を巡っているようだった。
なぜだ……。高山が訝しげな顔をすると、職員も首をかしげた。