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「何かがおかしい…」ファイターズ番記者が気づいた新スタジアム建設の”予兆” 極秘計画の存在を記者はなぜ知ったのか? 脳裏に浮かんだある人物の顔
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/04/19 06:00
2023年から日本ハムファイターズの本拠地となった「エスコンフィールドHOKKAIDO」
2015年のファイターズはペナントレース半ばが過ぎた時点で2位につけていた。だが、首位のソフトバンクホークスとの差はじりじりと広がっていた。巨大資金を背景にリーグ連覇へと独走する王者に水をあけられていることは明らかで、来季以降も含めてどう立ち向かっていくか、吉村の胸の内を知っておきたかった。トレードや外国人選手補強、ドラフト戦略にスタッフの入れ替えなど、ぶつけるネタも幾つか用意してあった。
正午を過ぎてしばらくすると、エントランスには断続的に球団職員の姿が見えるようになった。高山は短くなったタバコを灰皿の縁で揉み消すと、頭上を見やった。喫煙所の上には一部が磨りガラスになった球団事務所の階段があった。オフィスのある2階から誰かが降りて来れば、膝から下だけが見えるようになっている。長年張り込みを続けているうち、高山は階段を踏む足音を聞いただけで、それが吉村のものかどうか判別ができるようになっていた。他者よりもピッチが速く、静かだがはっきりとした足音が聞こえれば吉村が現れる合図だった。
ところがこの日、吉村は一向に姿を見せなかった。それどころか、球団代表の島田利正ら幹部たちの影もなかった。高山は視線を球団事務所の前に広がる駐車スペースに移した。1台ごとに白線で仕切られ、番号がふられている。球団幹部の車はエントランスに最も近い7番から9番に駐車されるのが暗黙の了解だった。そしてこの日はそのいずれもが空いていた。
そういえば、球団社長の姿も見ていない…
空振りか……。俯きながら次のタバコを咥えた瞬間、高山はあることに気づいた。そういえば、この数日、新しく本社からやってきた球団社長、竹田憲宗の姿を見ていなかった。竹田の愛車であるパールゴールドのセダンも目にしていなかった。高山は幹部の車を、そのナンバーに至るまで記憶していた。あの特徴的な車を見逃すはずがなかった。振り返ってみれば、昨日も一昨日も、かれこれ1週間ほど球団社長の姿を見ていなかった。
春に本社からやってきたばかりの竹田はフットワークの軽い人物だった。記者席にもよく顔を出して、担当記者たちともコミュニケーションを取っていた。その竹田が長期不在とはどういうことか。