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「何かがおかしい…」ファイターズ番記者が気づいた新スタジアム建設の”予兆” 極秘計画の存在を記者はなぜ知ったのか? 脳裏に浮かんだある人物の顔
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/04/19 06:00
2023年から日本ハムファイターズの本拠地となった「エスコンフィールドHOKKAIDO」
「何しに行っているんでしょうね? 僕たちは何も聞いてませんが」
彼が何かを隠しているようには見えなかった。だとすれば、社長の渡米目的は球団内でも限られた人間しか知らないのだろう。
やはり、何かある……。
高山は職員に礼を言うと、ひとりその場に残って考えてみた。幹部の渡米となれば、外国人選手や日本人メジャーリーガーの補強が考えられるが、それならば吉村ら編成部門の人間が行けばいいはずだ。球団社長が直接赴くとなれば、それは現場の編成にとどまる問題ではないような気がした。
噂には聞いていた新スタジアムの建設
高山はもう一度、メモした都市名を眺めた。ニューヨーク、セントルイス、ミネアポリス……。思わず、「あ」と声をあげそうになった。社長が巡っているという都市にはすべてメジャーリーグの中でも有数のスタジアムがあった。ボールパークの視察――つまり、新スタジアムかーー。
いつだったか、噂には聞いたことがあった。札幌ドームとの借家契約と高額な球場使用料に悩む球団内で新しいスタジアムの建設案が浮上したことがあったという。ただ、それは現実離れした計画として、それきり立ち消えになったと聞いていた。
たしかに札幌ドームとの問題はいずれ解決しなければならないだろう。だが、球団イメージとともに道民に定着した本拠地を捨てて、全く別の箱をつくるのは不可能だろう。それが噂を聞いたときの高山の率直な感想だった。
脳裏に浮かんだある人物の顔
だが今、目の前にある事実は新スタジアム計画が秘かに進行している可能性を示していた。構想を具体化するために球団社長自らアメリカのボールパークを視察しに行ったとすれば……。そこまで思考を伸ばしたところで、ある人物の顔が脳裏に浮かんだ。