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那須川天心“デビュー戦判定勝ち”のウラにあった陣営の思惑とは?「まずはもらわないこと」KOならずも“文句なしの初陣”といえる理由
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2023/04/09 17:02
4月8日、有明アリーナでプロボクサーとしてデビューした那須川天心。日本バンタム級2位の与那覇勇気を相手に判定3-0で初陣を飾った
本田会長の期待「次の試合はまったく別の天心に」
いまから10年前の2013年、帝拳ジムはこれ以上ないという鳴り物入りの選手を手がけている。ロンドン五輪で金メダルに輝いた村田諒太だ。デビュー戦の相手に選んだのが東洋太平洋王者の柴田明雄。リスキーな選択だったが、村田は2回TKOで期待に応え、プロとしてのキャリアをスタートさせた。いわば那須川にも「村田方式」が適用されたと言える。
デビュー前に海外でキャンプを張り、外国人選手、しかもトップ選手とのスパーリングを経験させるところも村田と一緒だ。村田はのちに拳を交えることになる当時のミドル級最強王者、ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)のキャンプに参加した。那須川もラスベガスで元WBO・S・バンタム級王者のアンジェロ・レオ(米)とスパーリングをした。
プロモーションに関しては昨年からボクシング中継をスタートさせたAmazonの存在が大きかった。本田会長によれば、Amazonは今回、かなり力を入れたプロモーション活動を展開した。那須川を支える10代、20代の若年層をターゲットにアプローチし、その結果、1万2500人が入ったこの日の有明アリーナはいつものボクシング会場よりも若いファンの姿が目立った。
那須川は今後、走り込みキャンプ、海外でスパーリング合宿というサイクルで、日本で試合を重ねていく予定だ。キック時代にボクシング・トレーニングをしていたとはいえ、ボクシングの練習を本格的に初めてまだ半年しかたたない。それだけ伸びしろは十分で、本田会長は「3カ月後か4カ月後、次の試合にはまたまったく別の天心になっている。1年もらえれば間違いなく本物になる」と大きな期待を寄せる。
那須川は「今日が一番の姿だと思ってほしくない。自分で自分に可能性を感じている。強い選手とやって勝つのが格闘技。もっと練習して強くなりたい」と目を輝かせた。打ち上げに成功したスーパースターは、さらなる高みを目指して加速していくことだろう。
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