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那須川天心“デビュー戦判定勝ち”のウラにあった陣営の思惑とは?「まずはもらわないこと」KOならずも“文句なしの初陣”といえる理由
posted2023/04/09 17:02
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
キックボクシングの“神童”那須川天心(帝拳)が4月8日、有明アリーナでプロボクシングのデビュー戦に挑み、日本バンタム級2位の与那覇勇気(真正)に6回判定勝ち。格闘技人生の第2章をスタートさせた。
那須川天心の意識は攻撃よりも守備にあった
試合を終えてから数時間後、記者の前に現われた那須川は清々しい表情で初陣を振り返った。
「デビュー戦を終えてホッとしている。セコンドからこのままでいいと言われた。倒したいという気持ちもあったけど、6ラウンドを経験できたのは大きいと思う」
キックでは経験のなかった6ラウンドの“長丁場”は、日本上位ランカーを相手にはっきりと力の差を示す内容となった。
パンチに自信を持つ与那覇は那須川のスピードを意識し、「顔にパンチはなかなか当たらない」と読んで、上半身を振りながらプレスをかけ、距離を詰めてボディ打ちから崩していこうと考えた。対する那須川のテーマは「まずはもらわないこと、脚を動かして止まらないこと」。攻撃より先に防御の意識だ。守りに入っているように聞こえるかもしれないが、帝拳ジムの本田明彦会長は苦笑いしながらこう説明した。
「今回、みなさんは楽勝だと思っていたのかもしれないけど、そんなことないですから。練習時間も少ない。負けられない試合。それを何とか乗り越えないといけない。勝負に(倒しに)いかせられないですよ」
那須川は作戦通り、脚をよく動かし、前に出る与那覇を空転させた。「相手の動きはほぼほぼ見えていた」との言葉通り、日本ランキング2位の動きを読み切った。とはいえディフェンス一辺倒だったわけでは決してない。常に先手を取り、与那覇の出鼻を徹底してくじいた。下がりながら相手が前に出てきたところに鋭いジャブ、左ストレート、ボディブローをピシピシと打ち込んだ。
2回には与那覇の左フックを外し、右カウンターを合わせてダウンも奪った。その後も那須川はパンチのタイミングをどんどん合わせていく。上下の打ち分けがしっかりしている。クリンチ際も強い。何よりスピードが違う。4回には左ストレートでダメージを与えてラッシュし、ストップ勝ちを予感させるシーンを作った。