――リオ五輪代表となった頃の記憶はどのようなものでしょうか。

「もちろん初めてのオリンピックは夢の舞台だったし『楽しみたい！』という気持ちが大きくて、本当に楽しめたんですが……強く印象に残っているのは、実はオリンピック本番より選考会の方なんです。手術から4年経って、そこまでのプロセスでかなりいい練習ができてきたし、“絶対いけるはず”という自信があったんです。それで実際、決勝のレースが始まる直前、スタート台に立った瞬間に足などが、微かに震え始めたんです」

――それは緊張なんですか？

「そうですね……その時の心境を思い出すと『あっ、私、すごく緊張している？』と気づくともに『ちょっと震えている！』と高ぶっているのを感じながらスタートを待っていた、という感じでしょうか。でも、そこからスタートしたあとの記憶がないんです（笑）。記憶があるのは、最後の種目の自由形のところなんです。だから自分、どうやって泳いでいたんだろうって……」

――いわゆる「ゾーン」に入ったような経験をするアスリートがいると聞きます。

「もしかしたらそうなのかもしれません。スタートしてから個人メドレーのバタフライ、背泳ぎ、平泳ぎを覚えていないですし、実際にレース後にレースを見直してみても『このときどんな気持ちで、どうやって泳いでいたんだろう』というのを一切覚えていないんです。確か自分の記憶があるのは……平泳ぎを終えて最後のターンをして、クロールの時に我に返るみたいな（笑）。なんか本当に、不思議な体験をしました」

2016年日本選手権での寺村さん。平泳ぎ時点では“ゾーン的”な状態に入っていたようだ　©Getty Images

ふと我に返った瞬間『体がキツい！』となったんです

――映像を確認してみましたが、寺村さんがぶっちぎりでトップを走っているレース展開でした。

「そうなんです、普段のレースと比べてみんながビックリするぐらい前半からツッコんでいるんですよ。いや、今の私が見てもビックリしますね（笑）。日本新記録も出るんじゃないかというハイペースなんですが、ふと我に返った瞬間『体がキツい！』となったんです。特にラスト25メートルが本当に厳しくて――映像を見ると分かるんですけど――泳ぎが本当に止まっているんです。そこまでにつけた差が大きかった分だけ、2位との差はギリギリには見えないんですけど、身体的にはフリーで撃沈して、本当にギリギリの状態でタッチした記憶しかありません」

――レースを終えた時の感情は？

【次ページ】　リオ五輪後「東京五輪に出て引退する」と