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「もう1回やったら絶対無理」宇野昌磨はなぜ「一番ひどい」から世界選手権連覇できたのか? ライバルの一言と恋人・本田真凜への感謝
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byAsami Enomoto
posted2023/03/29 17:01
フィギュア世界選手権で2連覇を果たした宇野昌磨(25歳)。怪我を抱えながらSP、FSともに首位、唯一の300点超での完全優勝だった
”ライバル”のマリニンから「君ならできるよ」
ショートの6分間練習前、靴を履いていると、イリア・マリニン(米国)がロッカールームにやってきた。4回転アクセルジャンパーとして、今大会で宇野との一騎打ちが予想されるライバルである。ところが、マリニンはこう声をかけた。
「怪我をしていると聞いて、とても心配してる。大丈夫、君ならできるよ」
改めて宇野は、本番に向けたメンタルを確認する。
「僕は英語が話せないのですが、イリアの気持ちとか人柄が伝わってきました。競技は自分との戦いであって、イリアや他のスケーター達は、一緒に戦っていく仲間なんだと思いました」
迎えた本番。メンタルは整っていた。
「冒頭のフリップはいつも(の練習)通り跳んで。もし失敗しても、2つめの4回転トウループに気持ちを引きずらないように」
「ノーミス」という雑念はもう消え去っていた。冒頭の4回転フリップがクリーンに決まると、続く4回転トウループ、トリプルアクセルも、次々と降りる。演技を終えた瞬間、いつになく強気のガッツポーズを見せた。104.63点での首位発進。興奮した様子で、こう話した。
「この2週間、家族とか身近な方に心配かけてしまったので。『大丈夫』と声をかけてくれて、僕以上に心配している人がいるので、申し訳なかったです。こういうショートが出来て、少しでも恩返しできたかなと思います」
「(本番は)できるイメージは湧いていました」
フリーに向けては、コーチやトレーナーと話し合い、落ち着いて計画をたてた。ランビエルコーチはこう説明する。
「この状況の中では、やりすぎないことが大切でした。ジャンプは、一つ一つチェックするだけでいい。足首は痛いだろうから、連続ジャンプは無理に入れない、ということも話しました」
フリー前日も、当日の朝練習も、ジャンプのミスはあったが、焦りはなかった。