「怪我は2週間前と同じ部位でしたが、すぐに治療することで痛みは悪化しなかった様子でした。昌磨の場合は、オンのスイッチさえ入れば、痛くてもちゃんと演技できることを知っていたので、変な心配はしませんでした。重要なのは、身体よりもメンタルです。伝えたのは『冷静でいること』『普段どおりのコンディションでなくても、自分の自信が何よりも勝るんだよ』ということです」

公式練習後に宇野に笑顔で話しかけるステファン・ランビエルコーチ　©︎AFLO

　試合直前に捻挫をしたならば、身体的・技術的な影響を考えそうなもの。しかし宇野のチームは、マインドセットの方を重要視したのだ。23日、ショート当日の朝練習では、4回転が決まらなくても談笑する様子が見られた。

「状態が悪いからといって何か救済があるわけでもないです。それに、足が痛い時に練習してきた経験もあったので、痛い時に自分がどこを庇ってどういうジャンプになるかは予想できていました。そういう意味で朝の公式練習で調整は出来ていたと思います」

「状態が悪いのに高望みしていた」と気づいて冷静に

　朝練習のあと、いったんホテルで休養する。夜の試合に向けて出発する時、宇野は自分の心の変化に気づいた。

「最近はショートの演技は冷静に臨めることが多かったんですが、ホテルを出発する前に自分が『あ、ちょっと緊張しているな』と思ったんです。会場に着いてから『いつもはどうやってるかな。なんで今回は緊張しているのかな』と考えた時に、『ノーミスしたいと思っているな、全体を見すぎてしまっているな』と気づきました。この1年は『失敗しても他をまとめる』という気持ちでやっていた。なのに今日は一番状態が悪いのに『ノーミス』という、一番高望みをしていたなと気づいて。そこからは割と冷静にやることができました」

　この気づきは、今季のNHK杯でつかんだメンタルコントロールをうまく応用したものだった。試合前にジャンプの調子を崩し「ノーミス出来ない」と苛立っていた宇野へ、ランビエルコーチがかけた言葉。「完璧というのは目指すものではない。一つ一つこなしていった先に、完璧というものがある」。その精神と共通する「ノーミスを目指すのではなく、一つ一つの技に向き合っていく」という考え方。NHK杯での学びを、しっかりと自分の経験として使いこなしていた。

　さらに背中を押してくれる出来事もあった。

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