オリンピックへの道BACK NUMBER
立ち尽くす三浦に木原は「見てごらん」と声をかけ…“りくりゅう”が築き上げた、ふたりならではの世界「(僕は)飼育員なんで」「(私は)動物か?」
posted2023/03/28 17:02
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Asami Enomoto
ふたりで新たな歴史を築いた。
フィギュアスケートの世界選手権ペアで三浦璃来・木原龍一が優勝。日本ペアとして初めて表彰台の中央に上がり、同一シーズンにおいて国際スケート連盟の主要大会すべてで優勝する「年間グランドスラム」もあわせて達成。全種目を通じて、日本で初めてのことだ。
「年間グランドスラム」達成も、フリーで見せた翳り
世界選手権で金メダルを獲得したことにより、今シーズン出場したすべての大会で優勝。数々の記録を打ち立てたシーズンの有終の美を飾った。
ショートプログラムでは自己ベストを更新して1位。
ただ、最終滑走で迎えたフリーは、歓喜に包まれたショートとは様相が異なる光景があった。
前半、サイドバイサイドのトリプルサルコウで三浦が2回転になる。後半には得意のスロートリプルループで三浦が転倒。シーズン中、成功させてきて、プログラムの後半に自信を持って組み入れているジャンプだったが、まさかの失敗だった。
三浦の表情は「失意」あるいは「放心」
演技の終了した瞬間の三浦の表情は容易に形容しがたい。失意に打ちのめされたような、もしくは放心したような翳りを帯びていた。
直前の滑走者、昨年の世界選手権金メダルペアのアレクサ・クニエリムとブランドン・フレイジャー組がミスはあったが合計得点で三浦と木原の自己ベストであり今季世界最高得点でもある216.16点を上回る217.48点を出していた。その点数は分かっている。なおさら、強く悔いた。
三浦は立ち尽くす。
そこからがふたりの真骨頂だった。木原が三浦の両手をとって向き合うと、顔をのぞきこむように腰をかがめ、ひとしきり声をかける。