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「大谷翔平は“漫画のようなストーリー”と思っていない」世界一になった夜も課題を口に…番記者がWBCで目にした“等身大の大谷翔平”
text by
阿部太郎Taro Abe
photograph byGetty Images
posted2023/03/28 11:03
WBC決勝戦で同僚マイク・トラウトから三振を奪い、日本を世界一に導いた大谷翔平。「漫画のようなストーリー」の裏側に、番記者が迫った
大谷翔平「打撃に関しては、正直、そこまで…」
3対2とリードした9回表、満を持して大谷が出てきた。ブルペンからマウンドに行く道中。一歩、一歩を噛みしめるように歩いた。
直前にビデオ判定があったことが、大谷に小さな余裕を与えていた。
「リプレー検証があって、ゆっくりマウンドに行くことができたのが、いいリズムになるきっかけとなった」
気持ちはたぎるように熱くても、頭は冷静でクール。気迫を前面に出しながら、勝つために常に最善の策を頭で描くリアリスト。大谷はいつもこの二面性を持ち合わせている。
8回裏。ブルペンの椅子に腰掛けて出番を待っている時も、考えていたのは、どう打ち取るかのシナリオだ。
「自分が対戦するであろうラインアップを見て。9番から始まって、1番、2番と。しっかり2死走者なしでトラウト選手というのが最高のシナリオだと思った」
いわく「漫画のようなストーリー」。決勝後、日本メディアだけでなく、米メディアでもその見出しが躍った。
だが本人はいつも、その手の質問に対して、現実的な言葉を返してくる。
「打って、投げて、漫画のような世界だったが」と問われ、淡々と振り返った。
「打撃に関しては、正直、そこまで良かったという内容ではない。セカンドゴロに倒れたところ(5回の第3打席)は、理想は一、三塁にするのがベストだったなと思う。そこをヒットコースに運べないのは、課題の一つ」
この質問に答えたのは、シャンパンファイトを終え、公式会見も終え、帰路に着く途中のミックスゾーンだった。時刻は深夜の1時30分ぐらいだっただろうか。「今まで(人生)の中でベストな瞬間」と言った世界一をつかんだ後、自らの課題を冷静に話し出す選手は大谷ぐらいかもしれない。
本人は「映画や漫画のような出来すぎたストーリー」とは微塵も思っていない。
むしろ、抑えに回るこのケースはまた訪れると睨んでいる。それはプレーオフの緊迫した場面かもしれないし、ひょっとするとワールドシリーズなのかもしれない。