「大谷翔平は“漫画のようなストーリー”と思っていない」世界一になった夜も課題を口に…番記者がWBCで目にした“等身大の大谷翔平”

　アメリカとのWBC決勝は、「小さい頃から夢に見ていた」場所だった。試合前の心高ぶる時間。短いスピーチを求められた大谷翔平は、大好きなチームメート、監督、コーチの前で口を開いた。

「僕から一個だけ。憧れるの、やめましょう。憧れてしまったら超えられない」

　約30秒。その言葉に込められたメッセージはシンプルで、強烈だった。

トラウト、ベッツらの名前をあげて「今日だけは憧れるの、やめましょう」と語った大谷翔平　©Getty Images

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スター軍団を抑えた最年少・高橋宏斗の証言

　アメリカに憧れ、プロ野球を飛び越えてメジャーリーグに挑戦しようとした男だ。高校3年時に書いた人生設計シートの項目には、ずらりとメジャーリーグで達成したい項目が書かれていた。

　プロ野球を経て海を渡った。憧れの選手にプレーで勝たないと、メジャーリーグでは生き残れない。綺麗事ではない。自ら肌で感じ、様々な批判や懐疑的な見方を覆した大谷の言葉には魂が宿っていた。

「僕らは知らず知らずのうちに、アメリカの野球にかなりリスペクトの気持ちを持っている。その眼差しが、弱気に変わることが多々ある。今日だけはそれを忘れて、対等な立場で必ず勝つんだという気持ちをみんなで出したかった」

　侍ジャパン最年少の高橋宏斗は、その言葉が心に響いた。

　2点リードの5回を託された。1番ベッツ、2番トラウト、3番ゴールドシュミットを迎える。まさに、大谷が声出しで名前をあげた選手たちだ。

渾身の投球でトラウトとゴールドシュミットから三振を奪った高橋宏斗　©Naoya Sanuki

　20歳の高橋は夢中で腕を振った。目の前にはスター軍団。でも、相手は関係なかった。

「（大谷の言葉は）もちろん、その通りだと思った。自分自身、相手をメジャーリーガーと思わずに、1人の打者として投げることができた。気持ちで負ける部分は1ミリもなかった」

　憧れの気持ちはなかった。ただ、抑えて勝ちたいだけだった。大谷の気持ちを、全員が共有していた。

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