「あんなに楽しく野球をしているのを初めて見た」

　優勝を決めた最後のシーンは、何度も何度も日本のテレビで流れていることだろう。

　敬愛するエンゼルスの同僚トラウトを、得意のスイーパー（スライダー）で空振り三振に仕留めた。内角から外角のボール球に、信じられないほど大きく曲がった。

　その瞬間、大谷がグラブと帽子を激しく投げ捨て、感情をむき出しにして吠えた相手は侍ジャパンのベンチの仲間だった。なぜか。

　9回。マクニールを四球で出した後、ベッツを併殺打に仕留めて、大谷はベンチを見たという。

「みんな『いけるぞ』という表情をしていたので勇気づけられた。あと1人にフォーカスして、自分にもいけるという自信も出てきた。あの時、ベンチのみんなの表情に助けられた」

　勝利をひたすら追った。冷静な眼差しは消えていない。ただ、侍ジャパンの大谷の後ろには、絆を深めた仲間がいた。

　シーズン中もオフもあまり外食をしない男が、度々チームメートと出先で舌鼓を打った。後輩たちとも積極的に絡んだ。

　21歳の宮城大弥には「タメ口でこい」と伝え、「翔平、おはよう」と言われると「いいねー」と笑った。

　“スーパースター・大谷翔平”の仮面を自ら取った。等身大の大谷の姿が、メディアからも見えた。

　一発勝負のヒリヒリ感。世界一を掴む過程で勝利とともに、仲間と貴重な時間を共有し、絆も深まった。

「終わってしまうのは寂しい気持ちもある。みんな同じじゃないかな」

　素直な感情が口をついた。

　エンゼルスでずっと寄り添ってきた水原一平通訳の言葉は何より、侍ジャパンでの大谷を的確に表していた。

「翔平があんなに楽しく野球をしているのを初めて見た」

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