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「チョーノ! 俺と戦え」武藤敬司は、なぜ蝶野正洋を指名したのか?「一寸先はサプライズ」前代未聞の”引退試合後の引退試合”の舞台ウラ
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byEssei Hara
posted2023/02/25 17:01
武藤敬司の引退試合はまさかの展開に。武藤は内藤哲也と戦い敗れた後、リングサイドの蝶野正洋を指名した
「これ(蝶野との試合)はどうしてもやりたかったこと。何だかんだいって蝶野とはデビュー戦を一緒にやって、締めくくりを蝶野にしたかったんだよ。うん、よくアイツあそこまで動けたよ。たいしたもんだよ。アドレナリン出てたよ。アイツ、うん。うれしかったです。期待に応えてくれて」
そう言って最大の盟友であり、最大のライバルを称えた。自分の締めくくりを蝶野にしたかった一方で、蝶野の締めくくりも自分でありたかった。
蝶野はまんまと引っ張り出されてしまった。「武藤さんはまったく油断ならない」と警戒心をマックスにしながらも、結果的には巻き添えを食らった。まさにガッデムの心境だろうが、その表情は武藤と同じくどこか満足そうにも見えた。
蝶野「俺からしたら武藤さんは兄貴みたいなもん」
武藤の引退を前にNumberWebでインタビューした際に闘魂三銃士を3兄弟と表現したことが思い出された。
「武藤さんが長男で、俺が二男で、ブッチャー(橋本)が三男。だから俺からしたら武藤さんは兄貴みたいなもんだよね。頼れる兄貴ではないのだけれど(笑)。ただ、この兄貴は自分の好きなことをやって、自分の好きな道を行く。それはそれで面白いなって思いながら俺は見ていたよ」
2002年に武藤が全日本に移籍した後、蝶野はつかず離れずのスタンスを保っていた新日本の現場責任者となって“尻ぬぐい”を担った。武藤が行動を起こさなかったら、大変な思いをすることもなかった。でも結局は兄貴を憎めない。自分の思うままにプロレス界を泳いでいく人だから、とあきらめもついた。認めているからこそ“二男”の使命を受け入れることができたのかもしれない。
蝶野はSTFをほどいた後、武藤の背中に顔を寄せた。
ポンポンと軽く腕を叩き、肩越しに労いの声を掛けていた。
リミックスされた歴代の入場曲で登場したのも良かった。武藤をリスペクトした内藤のファイトも良かった。蝶野のSTF、橋本真也のケサ斬りチョップ&DDT、三沢光晴のエメラルドフロウジョンを繰り出したのも良かった。体のことを考えるとムーンサルトプレスは出さないで良かった。古舘伊知郎氏の朗読も良かった。花道を引き揚げる後ろ姿も良かった。
東京ドームは酔いしれた。数日経ってもその余韻から抜け出せないほど最高のサプライズと最高のフィナーレを堪能した最高の夜であった。
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