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「東大相手に本気になってくれた」桑田真澄コーチとの出会い、柳裕也の決死スクイズ…“94連敗を止めた捕手”喜入友浩アナの「挫折と喜び」
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byKyodo News
posted2023/02/18 11:16
東大野球部時代の喜入友浩アナウンサー。2016年には明治大学相手に勝利を経験した
「神宮ってメチャクチャ緊張するんですよ。いつも受けているピッチャーのボールをビューンとパスボールしてしまう。最初はその記憶だけですね。それが高揚感に変わり始めたのは2年秋です。夏のオープン戦から絶好調でこの調子を神宮にもつなげたいと思っていました。実際、2年秋にはホームランを打てたんです」
打った相手は、早稲田大学の大竹耕太郎。その後ソフトバンクに入団し、2023年から現役ドラフトで阪神の一員となったサウスポーである。その一撃にもいくつかの伏線があった。1つは「大竹君と僕は同じ九州の藩校（濟々黌／修猷館）出身で毎年交流戦があったんです。彼は僕の2学年下で面識があった」。つまり好投手だが自然体でバッターボックスに入れた。もう1つは「スライダーを狙い打ち」したこと。ここには桑田氏と同じく、かつての偉大な野球人の教えが土台にあった。
「谷沢健一さんが打撃コーチをしていた際〈とにかく遅いボールを打つ練習をしなさい〉と教えてくださったんです。100キロくらいのスローボールを遠くに飛ばすことができれば大丈夫だと」
遅いボールを打つ……現役時代の落合博満が練習に取り入れていたと聞いたことがあるが、東大も他大学に勝つために必死に思考を巡らせていたのだなと知る。
「ホームランを打ったことがないから喜び方が…」
大竹との勝負に戻ろう。その練習に捕手・喜入らしい読みが合わさった。
「僕は体を開いて打つので、左投手の変化球が得意だったんです。でも第一打席はそのスライダーを引っ掛けてサードゴロでした。だから第二打席も大竹投手はスライダーで入ってくるのでは、と。そうしたら読みが完璧にハマりましたね」
打球は現日本ハムのショート石井一成、巨人の重信慎之介の頭を越えてレフトスタンドへ。「高校時代も打ったことがない」アーチを、神宮球場でかけたのだ。しかしなぜか、喜入はホームランを打ち慣れているスラッガーのようにクールにダイヤモンドを一周した。
「単純にホームランを打ったことがないので喜び方がわからなかったですし、その時点でスコアを0－3から1－3にしたくらいなので“喜んではいけないんじゃないか”と思ったんです。ベンチに帰ると？ はい、もう大騒ぎでした（笑）」
喜入アナの六大学での通算成績は202打数40安打1本塁打、打率.198。「もう1打席でもヒットを打っていれば、通算打率2割台と言えたんですけどね（笑）」と冗談めかしたが、2年秋は打率.270、4年春には打率.279をマークするなど、十二分に奮闘したと言えるだろう。
明大・柳裕也と戦って感じた執念とは
そんな喜入アナはキャッチャーとして、その後プロ入りする宮台康平の球を受け続けた。さらには他大学での対戦ではプロで一流投手になる選手の執念を感じる機会があったという。それは2016年春の明治大学戦である。
実はこのカード、2戦目は東大が3－2で勝利（それも喜入が現ヤクルトの星知弥から初回に追加点となるタイムリーヒットを放って勝利に貢献）している。しかしその試合の話題を振ってみると、一番強い印象に残っていたのは1回戦で対戦した当時のエース柳裕也（現中日）だったのだという。
この試合、東大から見ると0－1で柳に完封された試合である。最少得点差ということもあって〈惜しくも勝ち星を挙げることはできなかった〉という見立てにしがちだが……決勝点はその柳のサヨナラスクイズで決まった。それを目の前で見た捕手・喜入は9回裏、1死三塁のシチュエーションの記憶をたどる。
東大相手にここまで本気になってくれたんだ
「今なので言っていいと思うのですが……相手は柳投手ですが、インコースギリギリのストレートを要求したんです。そうしたらピッチャーの宮台（康平）のボールが引っかかって、柳投手の胸元に来てしまった。正直なところ僕も捕れないくらいのボールだったのですが、彼は避けないでサード側に転がして、執念で成功させたんです。〈ああ、これが甲子園で絶対に負けてはいけない野球部、横浜高でやっていた選手なんだ〉と実感しました。
ちなみにその前のイニング、全く同じ1アウト三塁の状況で僕らのチームもスクイズをしたんです。でもそこで柳投手は右投手なので三塁走者の動きでスクイズを瞬時に判断して、ワンバウンドを投げたんです。このボールがバットに当たってフライになり、ダブルプレーに終わったんです。この一連の攻守に〈トーナメント戦を勝ち抜いてきた、ここ一番の勝負力なのか……〉と痛感しました。
でも逆に言えば、僕が最も理想としていた明治大学の〈1－0でもしっかりと勝つ〉という野球で、東大相手にここまで本気になってくれたんだ。そう考えると嬉しさもこみ上げてきましたね。だからこそ負けた翌日は〈これは勝たないといけない〉という思いが強くなりました」
前述した通り、後にプロに行ったのは対戦相手だけではない。「東大卒プロ投手」と評された宮台の存在についても聞いてみた。
（#3につづく）
喜入友浩（きいれ・ともひろ）
1993年8月27日、アメリカ生まれ福岡県福岡市育ち。修猷館高校を経て東京大学へ入学し、野球部の正捕手として活躍。TBS入社後、スポーツ中継などを経験したのち、現在は「news23」のフィールドキャスターとして活動。ラジオでは「パンサー向井の#ふらっと」木曜日（隔週）なども担当。最近は「カメラにハマっています」とのこと
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。
