「果たし状」だけではないプロデビュー戦のテーマ

　デビュー戦の相手がいきなり現役の日本ランカーになったことで、天心はこの一戦のテーマを「ボクシング界からの果たし状」と定義する。確かにそういう見方もできるが、筆者はさらに「Reborn」（生まれ変わり・再生という意味）というテーマを掲げたい。

　周囲の見方とは裏腹に、天心は格闘家としての実績をあっさりと捨て、まっさらな状態でボクシングに挑もうとしているからだ。過去に国内でキックの王者からボクシングに転向し世界王者になった例は、少なくとも男子ではない。ポテンシャルが高い選手も多々いたが、キック時代に身体に染みついた癖が抜けきらなかったのかもしれない。

　しかし、これだけはいえる。天心はキック時代のパンチの打ち方を全て封印し、新たな打ち方を身につけている。その一端はすでにプロテストで披露された。現場でその動きを見た父・弘幸さんは目を細めた。

「以前と比べたら、後ろ足（サウスポーの天心の場合は左足）の使い方が全然違う」

2月9日のプロテスト、日本バンタム級1位の南出仁とのスパーリング。構えはキック時代から大きく変化していた　©Susumu Nagao

　筆者の目から見ても、ヒザの使い方などはキックボクサー時代と比べると明らかに違っているように映った。重心のかけ方にも大きな違いが感じられた。ファイターとしての天心の最も優れた才能は、学んだことをすぐさま実践し、新たな自分を錬成できるところにある。

　思い出してほしい。小学生時代の天心は自分より20kg以上重い対戦相手に空手で勝つために、ステップを駆使して自分の距離で闘うスキルを身につけた。

　首相撲が制限され、ヒジ打ちが禁止された現代のキックとは間合いもリズムも異なるヒジ・ヒザありのキックルールで、ムエタイの現役王者をバックスピンキックでKOしてみせたこともある。2016年の年末には、中1日でMMAルールの試合に挑戦し、それぞれパウンドとチョークで完全決着をつけた。新しいことに挑むたびに、天心は脱皮してきているのだ。

　案の定、天心は「プロボクサー」に生まれ変わりつつあることを示唆した。

「やっぱりインパクトだったり、タイミングは全然違うものができたのではないかと思う。お客さんが『こんなパンチを打てるようになったんだ』とビックリするようなこともあると思う。ビックリさせる自信はありますよ」

　Rebornした神童は、ボクシング界をも変えようとしているのか。

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