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「事実上のメイン」那須川天心デビュー戦の注目度は世界戦以上か…「ボクシング界からの果たし状」だけではない“もうひとつのテーマ”
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph bySusumu Nagao
posted2023/02/15 17:09
2月13日、刈り上げた髪を銀色に染めて記者会見に臨んだ那須川天心。4月9日のプロボクシング初戦には世界戦を超えるほどの熱視線が注がれている
しかし、だからといって普段はボクシングに興味を抱かない一般層にまでその魅力が浸透しているとはいいがたい。はっきりいえば、競技としての社会的知名度は圧倒的に大新聞や地上波でも扱われるボクシングの方が上ながら、個々の選手の売り出し方に関しては格闘技(ここではキックやMMAを指す)の方が上だろう。
その意味において、格闘技界で大いに名を売った天心の転向はボクシング人気の起爆剤になる可能性が高く、主催者もそれを期待しているように見受けられた。そうでなければ、デビュー戦のために1万5000人規模のキャパシティを誇る大会場を押さえる理由はない。
会見中、質問を受けていきなり立ち上がった天心
デビュー前から過剰ともいえる期待を受けている天心の扱いは、大昔からのセオリーが脈々と息づくボクシング界のパラダイムシフトを示しているように思えてならない。
そもそも2月9日、天心のためだけに行なわれたプロテストには約100人ものマスコミが詰めかけ、“神童狂騒曲”というべき様相を呈していた。キックボクサー時代から一般メディアにあまた露出していた天心も、プロテスト後は今まで味わったことのない影響力の強さに新鮮さを感じているようだった。
13日の会見で司会者からプロテストの余波について聞かれると、この日のために髪の毛を短く刈り上げたうえに銀色に染めた天心はいきなり立ち上がり、こう話し始めた(他の登壇者はみな座ったまま発言していたので、立ち上がるだけでも目立っていた)。
「プロテストの模様が地上波全局のニュースで放送されたのですごくうれしかった。ただ、キックをやっているときには地上波のニュースで1回も放送されなかったので、その悔しさというのもありました」
ボクシングに転向したとはいえ、今までやっていたキックを下に見るわけではなく、ボクシングはボクシングとして、キックはキックとしてフラットに見る。それが、それぞれの競技をリスペクトしてやまない天心の基本的なスタンスだ。そういえば、プロテスト直後にはこんなことも言っていた。
「キックよりボクシングがすごいとか全く思っていなくて、両方ともすごい競技で歴史がある」