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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「井上尚弥という存在は脅威でしかなかった」“国内最強”の軽量級オリンピアンが衝撃を受けた、高3のモンスター「本当に怪物だと思うのは…」
posted2024/02/01 11:01
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph by
Wataru NINOMIYA/PHOTO KISHIMOTO
村田諒太が井上に「須佐先輩に教えてもらいな」
13年の歳月が流れても、あの左ジャブは忘れられない。ロンドン五輪予選に向けた全日本強化合宿。2011年当時、アマチュアボクシングの軽量級で国内最強の呼び声が高かった27歳の須佐勝明は、ナショナルトレーニングセンターで大きな衝撃を受ける。のちに五輪で金メダルを獲得する村田諒太に「須佐先輩に教えてもらいな」と促され、目の前に現れたのは童顔の高校3年生。18歳の井上尚弥である。マスボクシングで手合わせをすると、いきなり驚いた。
「普通は届かない距離からパンチが飛んできました。当たらないと思っていたら、当たるんですよ。体の使い方がうまいんでしょうね。リーチは僕とそれほど変わらないのに。この選手は何なんだって。びっくりしましたね」
それでも、まだ完成されていなかった。須佐は人懐っこい後輩に気になるポイントをよく助言したという。井上がいまも試合中に使う小刻みなバックステップはそのひとつだ。自分がパンチを打ったあと、相手の一撃をもらわないために下がる動きである。まだ「モンスター」と呼ばれていなかった高校生は少し教えれば、スポンジのように吸収していった。
「須佐さーん」とかわいい感じで来る
「『須佐さーん』とかわいい感じで来るので、こっちもいろいろと教えました(笑)。『これをすればもっとよくなるよ』とか。あとあとライバルになるかもしれないなんて考えていなかったです。最初は勝てるだろうなと思っていたのですが、日に日に強くなって……。もしも当時ライトフライ級の尚弥君が階級を上げていれば、たぶん負けていましたね。あの頃の僕はアマチュアの世界ランクで20位以内には入っていたのですが、そのレベルでも無理だったと思います。スピード、パンチ、スタミナも違いました。井上尚弥という存在は脅威でしかなかったです」