月刊スポーツ新聞時評BACK NUMBER
「アレ」と「立ちション」…ちょいギリギリめのキーワードで岡田阪神は18年ぶりの優勝を目指す!
text by
プチ鹿島Petit Kashima
photograph byJIJI PRESS
posted2023/02/01 11:00
11年ぶりにプロ野球で指揮を執る岡田彰布新監督。目指すは2005年以来の「アレ」達成だ
『俺らが昔野球を始めた頃は、雨降りで傘さしたところで構えろって言われたけどな。一番楽なところで構えてるから、一番速く楽にバットが出るっていうかな。下半身はどうするんですか言うたら、立ちションする格好でやれ言うてな。力が一番抜けてるってところでな』(2022年10月26日・東スポWEB)と若手選手に説明したという。
これを読んで「あっ!」となった。実は私は中学生の時にまったく同じこと球界大物OBの口から聞いたからだ。その人物とは大杉勝男さん。強打者としてヤクルトスワローズを初の日本一に導いた。もともとは「暴れん坊集団」と呼ばれた東映フライヤーズ出身で、張本勲さんともクリーンアップを組んでいた。
バッティングコーチが大杉選手に「月に向かって打て!」と指導したというエピソードは大好きだった。その大杉さんに引退後に遭遇したのだ。私は中学では野球部だったのだが、ある日、練習中のグラウンドに大杉さんが現れた。地元には温泉があるので療養目的で野球選手やOBがよく来ていたのだが、関係者のはからいで大杉さんが野球部の練習を見に来てくれたのである。
理想のバッティングフォームとは
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ニコニコして見守ってくれていた大杉さんはノックをしてくれることになった。どれだけ暴れん坊な打球かと思いきや、とても優しい。シンプルで何の乱れもない打球に驚いた。そして部員を集めて語り出した。
「理想のバッティングフォームはね」
「出た、“月に向かって打て”だ!」と私はワクワクしながら次の言葉を待った。しかし出てきた言葉は意外なものだった。
「理想のバッティングフォームはね、雨の日に傘を差しながら立ち小便する姿だよ」
いたずらっぽい笑顔で大杉さんは語った。私も含めて中学生たちはドッと笑う。
「でも、本当だぞ」
大杉さんは説明を続けた。人間は立ち小便のときは皆リラックスしている。力が入っていないだろ? ヒザの使い方も自然だろ? あとは傘をバットに持ち替えればいいんだよと。
難しい理論を言われるかと思ったら「立ち小便」。田舎の中学生たちは嬉々として立ち小便の格好をし始めた。
プロの凄さとは、難しいことを簡単にしてしまうことかもしれない。さっきのノックの打球のシンプルさといい、立ち小便といい私はびっくりしていた。