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羽生結弦「僕が表現したいものだけ、つなぎました」アイスショー前、音響デザイナーが羽生本人から相談されたこと「編集も本当にうまくなった」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2023/01/23 17:00
北京五輪フリー『天と地と』。「プロローグ」は、6分間練習のBGMから、並々ならぬこだわりが詰められていた
羽生のこだわり「僕が表現したいものだけ」
「つなぎの部分を少しカットしていました。『僕が表現したいものだけ、つなぎました』と言っていましたね。『SEIMEI』のいちばんいいところを見せたいという気持ちで編集したのだと思います」
『SEIMEI』は矢野氏が編集を手がけてきたプログラムだが、羽生によるバージョンをどう受け止めたか。
「そのまま受け取って使用しました。気になるところがあったら直そうかなと思っていましたが、全然なかったですね。スムーズにつながっていたし、そのまま使える状態でしたから」
すでに完成しているものをさらに向上させたいという意思、そして自身で形にする感覚と技術がある。そこに矢野氏は感慨を覚える。羽生が矢野氏に初めて編集作業を見せたのが2015年、この『SEIMEI』だったからだ。
「途中、静かなところでピアノと、龍笛が上に重なっている部分があるんですけれども、ピアノの最後の音から次につながる部分、ここの音の間隔がどうしても彼自身のテンポに合わないということで、彼が自分の心地よい形で作ってきました。ただ、つないだ部分で『プチっと音が入るのできれいにしてほしい』と依頼を受けました」
矢野氏が感じた、羽生の努力
矢野氏は受け取った曲をリクエストに応じて整えて返したが、のちに羽生と編集で大切なことについて話をしたという。
「波形の上がり下がりの途中でつなぐことで音が入るから、波形のプラスマイナスがゼロのところでなければいけないことなどを話しました。彼も細かいところまで勉強していったのだと思います。編集も本当にうまくなったなって感じます」
音楽、音へのこだわりあればこそ編集の力も伸び、それがちりばめられたアイスショーの実現につながった。音響を担当する者として、編集を手がけてきた立場として、順風満帆とはいかない中での尽力があった。《つづく》
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