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羽生結弦「僕が表現したいものだけ、つなぎました」アイスショー前、音響デザイナーが羽生本人から相談されたこと「編集も本当にうまくなった」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2023/01/23 17:00
北京五輪フリー『天と地と』。「プロローグ」は、6分間練習のBGMから、並々ならぬこだわりが詰められていた
実は『天と地と』は3バージョン制作されていた
「彼からリクエストがありました。『天と地と』を使いたいけれど、6分間には足りない、でもリピートするのではなく原曲をいかした形にしてほしい、ということでした」
発想としては、曲をリピートして使用し、6分を埋める方法もあるだろう。その方が手っ取り早くもある。ただ、羽生はそれを望まなかった。矢野氏も同意見だった。
「使うのならリピートはしたくないと思いました。リピートには抵抗があります。それをするとどうしても曲を途中で終わらせる形になるので」
矢野氏は曲を「損なう」形を望まなかった。それは羽生も同様だっただろう。同時に、BGMですらおろそかにしないところに、細部まで大切にする羽生の姿勢が表れていた。
実際にショーで使用するまでに、複数のバージョンが作られたという。
「3つ作ったのかな。最初は実際にプログラムで使用している部分をいかしたバージョンでしたが、プログラムでは使っていない部分を交えて、だんだんプログラムで使った曲につなげていく方向になりました」
羽生自ら編集し、初披露した『SEIMEI』
6分間練習に続き、プログラムの序盤を飾ったのは『SEIMEI』。2018年平昌五輪での金メダルをはじめ、数々の名演技とともに世界最高得点などの記録も樹立した代表的なプログラムだ。
使用した曲は、厳密には初めて披露されるバージョンだった。
「(2020年の)四大陸選手権のときがもとになっています。そのときは4分8秒でしたが、そのバージョンから数秒縮めています」
その編集は羽生自ら行い、矢野氏に届けたものだった。