大八木監督から「お前は走り方が汚い」

　神戸が陸上を始めたのは中学生の頃だ。当時から箱根駅伝をよく見ていて、とくに駒澤大の藤色の襷に憧れを抱いていたという。高校は都立高に進み、まずは高校生の憧れである都大路を目指した。だが、神戸のように大学でも陸上を続けたいと思っている選手は少なく、都大路に出ることは現実的ではなかった。

　全国レベルでの実績に乏しい選手が、いくら憧れていたとは言え、駒澤大の陸上部に入るのは難しい。神戸はどうやってその扉を開いたのだろう。

「当時、僕らの高校の監督が大島（唯司・現JR東日本ランニングチーム監督）さんで、大八木監督と知り合いだったんです。それで高3の時に駒澤大の合宿に参加させてもらって、あわよくばスポーツ推薦の話を狙っていたんですけどね。大八木監督から『お前は走り方が汚い』って言われて、採ってもらえませんでした」

©Wataru Sato

いつも布団についたら1、2秒で寝てました

　神戸はそこで諦めず、一般推薦で駒澤大陸上部の門を叩く。面接と小論文、それに高校の内申点が評価され、見事に合格を果たした。

　だが、入部後に周りを見渡して、レベルの差に愕然としたという。

「同じ1年生でもやっぱりスポーツ推薦が多くて、しかも西脇工とか小林高とか駅伝の名門高ばかり。練習環境もガラッと変わって、一年目は本当に苦しかったです。高校の時がジョグ中心の練習だったから、なおさら質量ともに戸惑って。いつも布団についたら1、2秒で寝てました。たんに寝付きが良かったのか、気絶していたのかわからないですけど（笑）」

　ちょうど陸上部の道環寮が新しくなった年で、駒澤大は「常勝復活」の過程にあった。神戸らが最上級生になる年に、全日本大学駅伝を6年振り、箱根駅伝を13年振りに制すのだが、裏を返せばこの時期はやや精彩を欠いていたと言えるだろう。

　入部からしばらく経ち、環境に慣れてくると、神戸は徐々に記録を伸ばし始める。5000m、10000m共に自己ベストを更新し、2年生の時には箱根駅伝の予選会に主力の一人として出場した。駒澤大は圧倒的な強さを見せ、首位で通過を果たす。

2018年秋の箱根駅伝予選会　©Yuki Suenaga

「あの頃はただ練習についていくのに精一杯で、自分でもなんで走れているのかわからないくらいでした。死にもの狂いでやっていたら、勝手に記録も出ていたという感じです」

完全に別メニュー。みんな素直に、田澤やべえって

　そして3年生になった年、あの大物ルーキーがチームに加入する。大黒柱となる田澤廉だ。駒澤大の寮は先輩と後輩が相部屋になるのが決まりだが、監督が田澤の指導役に指名したのが神戸だった。

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