佐藤監督は高校野球に携わる中で、1年生のうちから活躍してきた才能のある投手が、3年生になって怪我などを理由に投げられないケースを目の当たりにしてきた過去がある。自身が監督になってみると、想像以上に肩や肘を痛める選手が多いことにも気づいた。だからこそ、佐藤監督は割り切って平日は極力、投げさせないようにした。そういった指導に変化があった頃に入学してきたのが吉川だった。佐藤監督の方針転換はピッタリとハマったのだ。

「すくすくとタケノコのように育ってくれました」

　2年春の浦和学院戦では、敗れはしたものの完投を見せると（1-4の敗戦）、秋は県8強入りの躍進に貢献。体も成長を続け、身長は185センチにまで伸び、体重も80キロに近づいていっていた（現在は82キロ）。徐々に吉川の名は広まり、3年春の県大会初戦・市立浦和戦にはNPBの6球団のスカウトが集結。その目の前で7回4安打1失点15奪三振の好投を見せ、ネット裏は「腕の振りが柔らかくシャープに振れている」「指先の感覚が良いので球を上手く操れている」「体ができてくれば非常に楽しみ」という好評の声で溢れた。さらに夏も2回戦の秩父農工科戦で20奪三振と大きな存在感を放ち、ドラフト前には全12球団が視察に足を運んだ。

吉川悠斗の投球フォーム（2022年春）©︎Yu Takagi

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「大学は勉強すれば行けます。だけど…」

　一方でまだ荒削りであることに加え、難関大学を目指す特選コースに在籍し「学校のトップ30人にいますね」と佐藤監督が話すほど学力優秀な吉川には、大学進学という選択肢も十分にあった。前述の春季大会時には「育成には時間がかかりそうだから大学に行った方がいいのではないか」というスカウトの声も聞こえた。

　また、偏差値が高く野球も強い名門大学からの誘いがあったため、佐藤監督も「大学に行かなくてもいいのか？」と進言したという。だが、吉川の決意は固く、親も交えた三者面談で明確に意思をこう伝えたのだという。

「大学は勉強すれば行けます。だけどプロに行けるチャンスは今しかないかもしれません。僕はそのチャンスを逃したくないです」

　この毅然とした主張には佐藤監督も「それはごもっともだと思いました」と苦笑い。「プロでダメだった場合はどうするんだ？」と尋ねても「そうなったら勉強して大学に進みます」ときっぱり答え、両親も納得した上でプロ志望届を提出した。

　結果として調査書は9球団から届いた。支配下指名こそ無かったが、育成ドラフトでは上位に名前が呼ばれ、歓喜に沸いた。

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