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内村航平34歳らが「スーパーラジオ体操、超人な逆上がり」実演…「これをやるために生まれてきた」と語る“引退後の一大イベント”
text by
長谷部良太Ryota Hasebe
photograph byKyodo News
posted2023/01/12 11:00
「体操展 動く芸術」で演技する内村航平さん(左から2人目)や白井健三さん(同3人目)ら
白井は、自身の名を冠した「伸身ユルチェンコ3回ひねり(シライ・キムヒフン)」で沸かせた。ひねりには切れがあり、着地も右足が1歩後ろに動いただけ。これには内村も「何なんすか、まじで」とあっけにとられた様子で、「現役復帰をお勧めします。今の完成度だと世界でも上位に入る」と舌を巻いた。
「もう1回、やりましょうか」
最後は男子の花形種目、鉄棒。1番手は、まさかの杉原だった。女子の段違い平行棒よりバーが細いにもかかわらず、肘がほとんど曲がらない美しい車輪技を連続で決めた。続いて田中佑典。手放し技「コールマン」を雄大に決めた後、得意のひねり技を3度続けてみせた。姿勢が乱れない見事な“職人技“に、内村は「やっぱり、かなわない」と脱帽した。
鉄棒の最後は、もちろん内村が締めた。バーを越えながら後方抱え込み宙返りをする「コバチ」は高さが際立ち、余裕を持った体勢でバーをつかむ一連の動きはまさに世界のお手本。ここまでは現役時代と変わらない、質の高さがあった。ただ、最後に伸身新月面の着地が止まらず数歩よろけると、不満そうな仕草を見せた。ここで思わず白井が声をかける。
「もう1回、やりましょうか」
観客も背中を押すように拍手。内村は苦笑いした後、集中し直して2度目の演技に臨んだ。その結果が、この記事の冒頭に記した場面だ。
着地を完璧に決めた後は、反省の言葉を並べた。「やっぱり引退しているんですねえ……。これだけの人に集まってもらって、1回のチャンスで決められないなんて」。とはいえ、誰もが決めてくれると期待した場面でミスを繰り返さなかったところに、オリンピックと世界選手権の個人総合で8連覇した「キング」の非凡さとプライドが感じられた。
「能や狂言に近い見せ方ができたんじゃないかな」
「体操展」の中で、内村は多くの印象的な言葉を残した。
緊迫した空気の中で一つ一つの技を丁寧に実施したゆかの演技後は、「伝統芸能のような、能や狂言に近い見せ方ができたんじゃないかな」。鉄棒で着地を止め、会場の空気を支配したことについては、「この瞬間が一生続けばいいと思っていました」。左肩の痛みをこらえて全ての演技をやり切った後は、このようにも話していた。
「これだけの皆さんが集まってくれたら、たぶんそれ(痛み)は言い訳にしかならない。(体操展の開催は)宿命ですね。これをやるために生まれてきたんじゃないかな」
終演の予定時刻を30分ほど超える約2時間半のイベントの最後で、内村はゆかのフロアに1人で立ち、四方に感謝のお辞儀をした。