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「高梨(沙羅)選手から力をもらった」一時は“引退も決意した”トランポリン・森ひかる23歳は、東京五輪からいかに這い上がったか?
posted2022/12/26 06:00
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
KYODO
トランポリンの東京五輪代表・森ひかる(TOKIOインカラミ)が、11月にブルガリアで行なわれた世界選手権の女子個人で3年ぶり2度目の金メダルに輝いた。決勝では縦3回宙返りにひねりを入れた2種類の「トリフィス」を含む高難度の演技構成を披露。力強く、美しい跳躍で56.230点をマークし、両手を掲げて喜びを爆発させた。
'19年世界選手権で優勝し、東京五輪は金メダルが有望視された。しかし1年延期された中でピークを合わせきれないまま五輪が開幕。期待が大きかっただけにプレッシャーも重く、13位で予選落ちすると大粒の涙が止まらなかった。
「思っていた以上に落ち込んだ」と、一時は引退を決意。五輪時は大学4年生だったこともあり、「就職したら出来ないから」と寿司屋でのアルバイトも経験した。競技から離れて過ごす中で少しずつ気持ちが回復したが、「トランポリンは過酷で難しい競技。なかなか続けるという決意に至らなかった」。
森の心を動かした、高梨沙羅の姿
揺れる森の心を突き動かしたアスリートがいた。スキージャンプ女子の高梨沙羅だ。スーツ規定違反で失格となった今年2月の北京五輪混合団体から葛藤を抱えながらも這い上がり、意を決して出場した3月のワールドカップで劇的に優勝を飾った。その姿に森は感銘を受けた。そして、今年5月の復帰宣言時には「パリ五輪で金メダルを目指す」と意気込みを示し、こう言った。
「私自身、五輪で失敗をしてしまったので気持ちがすごく分かった。高梨選手があそこから立ち上がる姿は格好いいと思ったし、頑張ることっていいな、素敵だなと思った。私が再びトランポリンの舞台へ向かっていく姿を見て、高梨選手から私が力をもらったように、少しでも勇気を感じてくれたらうれしい」
今回の世界選手権で有言実行以上と言える優勝を果たしたように、とてつもないリバウンドメンタリティーを見せた森。ところが、ブルガリアからの帰国後は「今後は白紙です」とし、競技続行を迷っていることを明かした。報道によれば練習環境の悩みがあるというが、ならば日本体操協会がバックアップする必要があるだろう。パリ五輪の頂点を目指せる実力と意志のある選手の道が閉ざされないことを願いたい。