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《引退》“史上最高の体操選手”内村航平が追い求めたモノとは「みんなに知らせたくて体育館中を騒ぎ回った」「映像を100万回は見ました」
posted2022/01/17 17:10
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
Asami Enomoto
現役生活の間に体操競技で認定されている約800個の技のうち、約500個を習得してきた“キング”が、思い入れのある技として挙げたものが3つあった。
技1)“跳馬の終着点”。虎視眈々と習得を目指した
その中の一つが、跳馬の「リ・シャオペン(ロンダートからひねり前転跳び前方伸身宙返り2回半ひねり)」。中国代表として2000年シドニー五輪と08年北京五輪で男子団体金メダルを獲得するなど一時代を築いた李小鵬(リ・シャオペン)が、02年の世界選手権などで成功させ、その名がついた技である。
この技が内村を魅了したのはなぜか。それは、ひねりと回転が高次元で組み合わさった技であり、空間で体を操る極めて高い技術に加え、高く跳躍するための図抜けたパワーも必要な、最難関の技だからだ。
内村がこの技に興味を持ったのは高校時代だったという。日体大1年だった07年に練習で初めてやってみると、「一応できたのですが、全然使えるレベルではなかった」そうだ。しかし、ここで諦めないのが内村だった。その後の8年間、内村は虎視眈々と「リ・シャオペン」の習得を目指した。
技をマスターするために内村は独自のプランを立てた。「リ・シャオペン」を前半と後半に分けてとらえ、まずは「リ・シャオペン」の前半部分と同じ「ロンダート(側方倒立回転跳び1/4ひねり後ろ向き)」から入る「シューフェルト」をマスターした。北京五輪と12年ロンドン五輪ではこの技で男子個人総合を戦った。
13年と14年は「リ・シャオペン」の後半部分と同じ動きをする「ヨー2(前転跳び1/2ひねり後方伸身宙返り2回ひねり)」という技を試合で使った。シューフェルトとは特徴が異なる技であるだけに、内村がヨー2を使い始めた時は、その万能ぶりに感嘆させられたものだ。
中国に勝つための“切り札”だった
内村が「シューフェルト」の後に「ヨー2」を使っていた本当の狙いがわかったのは、15年に「リ・シャオペン」を跳ぶようになってからだった。