酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
年俸4.25億円ダウンの田中将大…日本復帰の2年間は“不運な無援護”なだけで「一線級の先発」だった? 23年の逆襲に期待したいワケ
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byNanae Suzuki
posted2023/01/11 11:01
21年、22年と勝ち星に恵まれなかった印象が残る田中将大。日本復帰3年目にどんな成績を残すか
2013年、24勝0敗という空前の記録を残したシーズン、田中はピンチになると「ギアチェンジ」で150km/h台後半の速球を、打者が手も足も出ない絶妙のコースにずばっと投げこんでいた。
2021年に復帰してからも、最高球速は154km/hを記録してはいる。ただ「ギアチェンジ」のすごみは以前ほどではなくなった。また、この2年間の被本塁打33本は、同僚の岸孝之の35本に次いで全投手でワースト2位。それでも田中は先発として任されたマウンドをしっかりと守って責任を果たしている。
田中は今もなおNPB屈指の「イニングイーター」である
MLBに「イニングイーター」という言葉があるが、まさに田中はNPB屈指のイニングイーターだと言えよう。
投手の実力を測る指標としての「勝利数」は、MLBでは今や評価されていない。
MLBの投手最高の栄誉であるサイ・ヤング賞の投票では、2018年のナ・リーグで、わずか10勝のジェイコブ・デグロムが18勝のマックス・シャーザーらを抑えて栄誉に輝いている。
<2018年ナ・リーグ サイヤング賞投票(ポイント)結果>
1.Jデグロム(メッツ)10勝9敗 217回 率1.70 207ポイント
2.Mシャーザー(ナショナルズ)18勝7敗 220.2回 率2.53 123ポイント
3.Aノラ(フィリーズ)17勝6敗 212.1回 率2.37 86ポイント
たとえ1点で相手を抑えても味方が1点も取れなければ敗戦投手になる。しかし5点取られても味方が6点取ってくれれば勝ち投手になる。「勝敗」という指標は「運」に大きく左右されるために――セイバーメトリクス的には等閑視されているのだ。
田中将大にとって、年俸の大幅カット以上に「NPBに戻ってからはあまり活躍していない」という評価の方が不本意だと感じているかもしれない。しかし田中は投手として円熟味を増し、依然として素晴らしい投手として活躍していることは、各数字が証明している。
史上3人目の「日米通算200勝」が間近に
「勝敗」はセイバー的には意味がないと言ったが――「野球史」という別の視点では、大きな価値がある。田中は今季、史上3人目の「日米通算200勝」に王手をかけている。
<日米通算勝利数>
黒田博樹 203勝(日124勝/米79勝)
野茂英雄 201勝(日78勝/米123勝)
田中将大 190勝(日112勝/米78勝)
石井一久 182勝(日143勝/米39勝)
ダルビッシュ有 188勝(日93勝/米95勝)
岩隈久志 170勝(日107勝/米63勝)
松坂大輔 170勝(日114勝/米56勝)
「援護点が少ない投手は、投げるテンポが悪くて打線が調子に乗れない」という人もいるが、それを裏付けるデータはない。単なる「運・不運」だと思う。
巡り合わせで言えば、今季の田中は、これまで通りの安定感ある投球をしていれば、援護点に恵まれ、相応に勝ち星がついてくるのではないか。
最近の田中将大のマウンドは風格に満ちている。35歳になるエース田中に期待したい。