平川さんがふと先輩の面影を感じるのはこんなときだ。

「河村さんとはやっている仕事がほぼ一緒なので、東京ドームへ行けば思い出しますし、箱根のコースを歩いていてもこんな実況をしていたなって思うこともあります。ゴルフの中継に行ったときにはキャディの方とかメーカーの方からお悔やみの言葉をかけられて、幅広く人脈を作られていたんだと今さらながら気づかされました。振り返ると、河村さんが会話しているときの場の雰囲気ってすごく柔らかいんです。それだけ会話力があったんでしょうね」

「みんな箱根駅伝が好きですよ」

　蛯原さんも同様の感想を語った。

「亡くなられて色んな方から電話やLINEをいただいたんですけど、ジャイアンツで言えば用具係の方やバッティングピッチャーの方とか、裏方さんからの連絡が本当に多かったです。河村さんはものまねも上手だったので、番記者の方からそれを懐かしまれたこともありました。人の特徴を掴んでそれを言葉にする能力に長けてました。ものまねは子どもの頃から得意だったって、お母さんもおっしゃっていましたから」

　ふと、こんな質問をしてみる。河村さんは箱根駅伝が好きだったのだろうか。

　二人は「もちろん」と声を揃えた。

「日本テレビのアナウンサーはみんな箱根駅伝が好きですよ（笑）。とくに長距離は生活がぜんぶかかわってくる種目でもあるので。そこに人生を捧げているのは尊いなって思います」（平川）

河村さん（左）が最後に移動車実況をした第94回大会の時の映像（左から3人目が蛯原アナ）　©︎日本テレビ

　時代は移ろい、選手も監督も、そして運営に携わる人々の顔ぶれも変わりながら、箱根駅伝は続いていく。あの声がもう聞かれないのは残念だが、河村さんの足跡は今後も、山の神という言葉と共に、駅伝ファンの間で長く語り継がれていくことだろう。

【次ページ】　今回の箱根も必ずどこかで見ていてくれる