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サムライブルーの原材料BACK NUMBER
背番号3を受け継いで…松本山雅の象徴・田中隼磨40歳が天国の松田直樹に捧げた現役最終戦「マツさんなら絶対、お前情けねえなって…」
posted2022/12/19 11:02
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
J.LEAGUE
サッカーの神様は、粋な計らいをしたものだ。
11月20日、松本山雅はホームのサンプロアルウィンにSC相模原を迎えた。1年でのJ2復帰がなくなり、失意のなかで迎えたJ3最終節。スコアレスで試合が進んでいくなか、残り時間わずかのところで田中隼磨がついに呼ばれた。
40歳のベテランは試合の3日前に、プロ22年のキャリアに終止符を打つことを発表していた。ケガを抱える右ひざの状態が回復せず、2022年シーズンは一度もベンチ入りできていない。前年までさかのぼっても、開幕戦に先発出場したのみでベンチ入り自体が1年9カ月ぶりだった。
いざピッチに立っても、プレーできない可能性があった。走れない可能性だってあった。右ひざから痛みが消えることなどなかったからだ。それでも「行けます!」と名波浩監督に伝え、来たるべき数分間のプレーに自分の集大成をぶつけようとした。
熱血漢らしいゲキアツなフィナーレ
背番号3の登場に、雨のサンプロアルウィンが一気に盛り上がる。するとどうだ。交代から3分間、定位置の右サイドに入った田中は味方からのパスを中に持ち出し、左足でクロスを送る。もはや右足ではキックを放てないゆえの苦肉の策。ファーサイドに流れたそのボールの折り返しから、21歳の中山陸が決勝点となるゴールを挙げたのだ。チームメイトが次々に、田中に抱きついていく。
動けないどころか、得点に絡んでチームに勝利をもたらすというちょっとした奇跡。地元のチームである松本山雅を全国区にしようとしてきた熱血漢らしいゲキアツなフィナーレであった。
「自分が勝たせるしかないっていう思いでピッチに入りました。確かにあまり動くことはできません。でも、ここまでサポーターと築き上げてきた絆がありますから、お互いの思いでスタジアムの雰囲気を変えられるんじゃないかって。
何とか左足で蹴ったんですけど、軸足(右)のほうにビリッと電気が走るような感覚があったし、凄く痛かったのは事実です。でも魂を込めて、頼むっていう思いが、ああやってゴールにつながった。痛いをうれしさが超えていきました(笑)」
右ひざのケガは、彼にとって代償であるとともに勲章でもあった。