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競馬PRESSBACK NUMBER
“ユキノビジンによって生まれた”タレント・優希乃さんの競馬愛が深すぎる「馬に会えないのがつらすぎて、競馬場でバイトも…」
text by
軍土門隼夫Hayao Gundomon
photograph byWataru Sato
posted2022/12/17 17:03
1993年エリザベス女王杯出走時のゼッケンを持つ優希乃さん。通常は馬主が手にするゼッケンがなぜ手元に? その答えは…
優希乃さんが何度か会って知っているユキノビジンは「ちょっと愛想のない、ツンとしたところのある馬」だった。飼葉桶を覗こうとすると「私のテリトリーに入ってこないで」と耳を絞って怒るような、気の強い馬だった。
そんなユキノビジンに20年ぶりに会った利雄さんは、「ユキ」と呼びかけ、優しくその首を抱いた。それを見て優希乃さんは、お父さんは本当にユキノビジンのことが大好きなんだな、2人は特別な関係なんだなと心から理解したのだった。
その旅で3人は、村田牧場だけでなくあちこちの牧場を巡った。浦河のAERUに宿泊し、引退名馬を見学した。それはまさに家族水入らずの「馬旅」だった。
ユキノビジンが26歳で天寿を全うしたのは、その翌年のことだった。
「父は『そうかあ』って。爪が悪くて早めに繁殖牝馬を引退させてあげたことで、長生きできましたからね。でも母はなかなか立ち直れなくて、1週間寝込みました。村田牧場さんからは『もう一度会うまで待ってたんだね』って言われました」
馬を見るためだけに1人でカメラを持って競馬場に…
まるでタイミングを合わせたかのように、この頃、優希乃さんにも変化が訪れていた。小さな頃から好きだった、歌やダンスを活かした芸能の仕事へ進もうと頑張り始めていたのだ。
馬との関係も変化した。利雄さんが定年退職したことで、もう好きなときに、好きなだけ厩舎で馬と会うことができなくなってしまった。馬に触れたい。そんな一心で、優希乃さんは乗馬を始めたりもした。
「馬に会えないのがつらすぎて始めたんですが、そのあと仕事の関係で上京することになってしまって。それからは馬を見るためだけに1人でカメラを持って東京競馬場に行って、写真を撮ったりしてました。アルバイトも、少しでも馬の近くでと思って、3カ月ほど東京競馬場のインフォメーションをやったこともあります」
馬が好きすぎる人には、厩務員の仕事はできないよ
ただ、タレント活動はなかなかうまく先へは進まなかった。ましてや、その仕事が馬と交わる機会などない。年月だけがじりじりと過ぎていく中、2019年には利雄さんが亡くなるという悲しい出来事もあった。もう夢は諦め、厩務員など馬に携わる仕事に就けないだろうか。そんなことを考え始めた2021年夏、転機は突然やって来た。