- #1
- #2
Number ExBACK NUMBER
「あれ、松下さん?」バイト先に後輩のオズワルド伊藤俊介が来店…元相方のコンビがM-1決勝に進出した“2回戦落ち芸人”の後悔
posted2022/12/18 11:00
text by
松下慎平Shimpei Matsushita
photograph by
AFLO
12月18日、競技漫才の頂点を決めるM-1グランプリの決勝が今年も開催される。同大会で悪戦苦闘を続けるお笑いコンビ・テンポイントの松下慎平は、決勝に進んだ元相方のコンビや、バイト先で遭遇した昨年準優勝の後輩芸人の活躍になにを思うのか。オーストラリアで騎手見習いのライセンスを取得し、「2022 優駿エッセイ賞」で次席に輝いた異色の“競馬芸人”が、魂の叫びを寄稿した。(全2回の1回目/後編へ)
2021年12月某日。M-1グランプリ決勝から数日がたったある日、私は外苑前のコンビニでアルバイトをしていた。
勤務時間終了まで残り15分、一通りの仕事を片付け、レジで夜勤との交代を待つ私のもとに、小柄な若い男性客が冷たい缶コーヒーを持ってきた。
「ホットの缶コーヒーって置いてませんか?」と彼は私に尋ねる。
「うちの店、缶のホットは置いてないんですよ。すいません」私は余所行きの声で愛想よく応えた。
「そうですか。じゃあこれと、152番のタバコください」「かしこまりましたー」
ただの客と店員の会話……のはずだった。
「あれ?」
先に気付いたのは彼であった。「松下さん?」そう言われ、コロナ対策で設置された薄汚れたビニールの向こうの男性客の顔を再度確認する。そこにいたのは事務所の後輩であり、M-1グランプリ3年連続のファイナリスト、オズワルドの伊藤俊介だった。
「来年頑張れよ!」「いや、あんたもな!」
つい先日、テレビ画面のなかで煌びやかなセットと1本のセンターマイクを前に堂々と漫才を披露する彼らを観た直後であったので、ビニール越しのぼやけた彼の姿に現実感が全く湧かない。とりわけ親交の深い後輩というわけではないが、彼らがM-1で結果を出す以前に何度かライブが一緒になったこともあり、顔を合わせれば舞台袖で会話を交わす程度の間柄だった。
とはいえ、その頃とは状況が違いすぎる。先輩からすればバイト中の姿なんて後輩に一番見せたくないものだが、こういうときは後輩の方が気まずい、ということも私は経験上知っていた。