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メッシいきなり崖っぷち! イレブンと全国民の願いを背負ってメキシコと戦うアルゼンチンに注目せよ《天才FW最後の挑戦》
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph byGetty Images
posted2022/11/26 11:00
カタールに到着して、自分たちの写真が施された飛行機から降りてくるメッシらアルゼンチン代表選手
メキシコが僕にとって1度目のサッカー漬けになった土地だとすれば、2度目のそれはアルゼンチンだった。ブエノスアイレスに着いてまず長期逗留の安宿を見つけ、次に最低限の身の回りの品を近所のスーパーで揃えると、その翌週から僕は毎週末、どこかのスタジアムに足を運び始めた。
サッカー漬けというのは4年に1度のワールドカップごとに起こる特殊な現象だと思っていたが、地球の反対側には1年中、というか人生ずっと朝から晩まで、サッカー漬けの日々を過ごしている人々がいた。毎週末、彼らは歌い、叫び、野次り、罵り、讃え、怒鳴り、笑い、怒っていた。そして月曜日が来るとそれぞれが己の日常に戻り、次の試合のことを考えながら仕事に励んだり、仕事を怠けたりしていた。
スタジアムという場所も、それまでに僕が知っている(と思っていた)それとは、まったく違っていた。
たとえばある週末、僕はブエノスアイレスの郊外にあるインデペンディエンテという名門クラブのスタジアムにいる。ゴールラインからおよそ2メートル後方にカメラマンのフォトポジションがあり、そのすぐ後ろの金網の向こうには120%興奮状態のサポーターがいる。
いつも熱狂のスタジアム
前半開始直前、なぜかカメラマンになっていた僕はインデペンディエンテの攻撃を撮るべく、対戦相手(かの有名なボカ・ジュニアーズ)のサポが陣取るゴール裏側にいた。すると後ろからバシャバシャとビールとかコカ・コーラをかけられて「おい、お前、あっちに行け!」と怒鳴られる。「なんでお前はボカの攻撃を撮らねえんだよ!」
で、ビールでネチョネチョになって逆サイドへ退散すると、今度はインデペンディエンテのサポから同じセリフで責められる。「なんでボカの攻撃撮ってんだよ!」(じゃあどこにも行き場がないじゃん!とあなたは思うかもしれないが、試合が始まると、彼らのターゲットは目の前のカメラマンからピッチ内にいる敵の選手に移るので、もう大丈夫だ)。
ちなみに僕はこの試合で頭にごつんと強烈な一発を食らい、何が飛んできたのかと下を見たら、足元になんと投げ釣りで使う鉛の錘が落ちているのを見つけてなんだかものすごく嬉しくなった。オレ、ほんとにサッカーの本場に来てるんだなあ!と。
最初に書いたが、フグの子は糠に漬けてすぐに食べたら即死だけれど、3年経てば珍味になる。僕は都合8年ほどブエノスアイレス(と南米)に滞在したので、フグの子の糠漬け、ではなくサッカー漬けの中でも最高ランクのサッカー漬けを堪能することになった。