炎の一筆入魂BACK NUMBER
「褒めて伸ばす」新井貴浩新監督のもと、活気に満ちた広島の秋季キャンプで感じた強い組織に生まれ変わる予感
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKYODO
posted2022/11/21 06:00
秋季キャンプ合流初日に選手を集めて新井新監督が話をすると、選手たちの表情に笑顔が広がった
新井良太打撃コーチは堂林翔太を指導した際、技術面だけでなく精神面の助言もしたという。
「うまくいってダメで、またうまくいってダメで(という野球人生)。その気持ち、すごく分かる。自分を疑って、あっちこっちというのがあると良くない。でも、もっと自分の体を信じてあげていいんじゃないかと言いましたけどね」
これまで悪癖として指摘されることもあった上体をひねるフォームも「良さです。捻転でパワーを生み出す。あれは天性ですから」と認める。
その日の練習後、堂林は照れたように笑った。
「自分の頭をいい方向に洗脳できるようにします。自分、すぐ疑っちゃうんで。良太さんも現役時代、長距離を打っている打者。共有できる部分は多々あると思うので、自分も生かしていければいいなと思います」
選手のやる気を引き出す方法論
従来の広島のキャンプといえば猛練習。厳しい練習で鍛え上げ、教え込み、たたき込む印象が強かった。
だがこのキャンプでは、選手の意見や特長を受け入れ、寄り添った。基本的に指導を担当コーチに任せる新井監督は、絶妙なタイミングと言葉で選手のやる気をくすぐった。褒めて伸ばす、太陽のごときポジティブな方法論だ。
「褒めて、伸ばす」といえば、キャンプ中、若手の特守を見守る新井監督と高卒4年目の羽月隆太郎との間で、こんなやりとりが繰り広げられた。
新井監督「褒められて伸びるタイプか? しかられて伸びるタイプか?」
羽月「褒められて伸びるタイプです!」
新井監督「かしこまりました(笑)。キク(菊池涼介)に勝つ自信はあるか?」
羽月「(即答で)勝てます。いや……無理です、無理です。……勝ちます!」
新井監督「いいじゃないか(笑)」
監督の明るさ、考えはコーチ陣とも共有されている。だが、もちろん、ただ和気あいあいとやっているわけではない。たとえば紅白戦後のミーティングで、藤井ヘッドコーチは選手の姿勢を褒めつつ、プレーに大きく関わる声が出ていなかったことを指摘した。“褒めて、伸ばす”だけでなく、“褒めながら、指摘する”。そうすれば選手の受け取り方も変わる。それは、伝統の猛練習を行う選手たちの表情をみれば分かる。
活気や明るさがそのまま来季の成績に直結するわけではない。4年連続Bクラスのチームが、すぐに勝てるほど甘くはないだろう。だが、強い組織になる予感を確かに感じさせる秋季キャンプだった。
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