炎の一筆入魂BACK NUMBER
「褒めて伸ばす」新井貴浩新監督のもと、活気に満ちた広島の秋季キャンプで感じた強い組織に生まれ変わる予感
posted2022/11/21 06:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
KYODO
新体制となった広島が、3年ぶりに宮崎県日南市で秋季キャンプを行なった。コーチ陣や選手の顔ぶれが変わったが、例年と比べてなにより変化を感じたのはチームの活気だ。
練習メニューや球場周辺の街並みはこれまで見てきたものと大差ない。それでも明らかに違いを感じる大きな理由は、新たに就任した新井貴浩監督の存在にある。
監督交代によるチーム内の活性化はよく見られる光景ではある。ただ、今の広島から感じるものは、単なる変化では語れない。
第2クール2日目の11月14日、新指揮官はキャンプ地で初めて選手と顔を合わせた。練習前のグラウンドで、選手たちは大きな円陣をつくったが、新井監督は選手たちを近くに呼び寄せて、小さくなった円陣の中心で語りかけた。
「言いたいことは2つある。まず1つめは、お前たちが思っているより、俺はお前たちみんなに期待している。シーズンに入ったらこんなところで俺が投げるの? 野手だったらこんなところで俺が代打やるの? こんなところでスタメンでいくの? 俺、一軍に上がるの? というのがたぶん多くなると思う。
2つめは、俺は好き嫌いで起用とか絶対にしない。なんでかわかる? 嫌いなヤツが1人もおらんから。そのユニホームを着て、俺よく“家族”って言葉を使っていたけど、カープって大きな家の中でお前たちがいるから家族同然だと思っている。カープという家の中にみんなで一緒に住んで、みんなで切磋琢磨して頑張ろうという考えだから。嫌いなヤツは1人もいない。できることなら全員を登録して全員で戦いたい。だけど、プロ野球には枠がある。その枠を争って競争していかないといけない。
楽しいことは楽しく、うれしいことはうれしく、苦しいことも悲しいこともみんなで共有する。みんなで強くなって、みんなで優勝する。みんなで日本一になりたい。みんなで競争して、切磋琢磨して、みんなで強くしようという気持ちがある」
途中合流となったものの、その言葉で一気に選手の心をつかんだ。
心に響く新監督の言葉の力
栗林良吏はナインの思いをこう表現した。
「全員がそういう意識を持つことでチームがひとつになると思います。モチベーションも上がりますし、監督さんが来られて、チームの士気も上がる」
言葉の力は、練習からも感じ取れる。新井監督の方針もあり、押し付ける指導はしない。また、選手がやろうとしていることを頭ごなしに否定することはない。全体的に“肯定力”が強い。
キャンプ序盤の指揮官不在時、監督代わりとなった藤井彰人ヘッドコーチが選手に向けて拍手を送る姿がそれを象徴していた。