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“まさかの落選”大迫勇也32歳が明かした「バックアップメンバーは断りました」その言葉には続きがあった…現地で記者が聞いた話
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byJMPA
posted2022/11/09 17:26
写真は2018年W杯、ベスト16・ベルギー戦で敗れ、観客に手を振る大迫勇也
取材エリアではすでに、万感の表情を浮かべる水沼宏太、ミックスゾーンで感極まって涙を流す宮市亮(負傷した彼がシャーレを掲げる姿もよかった)の姿があった。マリノスの優勝を報じようとコメントを取る記者陣20~30人はいただろうか。彼らの喜びあふれる囲み取材が終わって十数分後、ヴィッセル関係者が出てきた。
気がついたときには大迫は、(ソーシャルディスタンスを取りつつ)大勢の記者たちに囲まれている。そちらにあわてて駆け寄る。
「W杯について聞いてもいいですか?」
そんな記者たちの質問に「いいですよ」と真摯に応じた大迫。すでに報道されている通り、「バックアップメンバーにも断りを入れたので。バックアップメンバーに入って、誰かの怪我を祈るなんて、したくないじゃないですか」と明かした。その言葉を聞いた瞬間、報道陣は驚き、“マンガの吹き出し”をつけるなら「!」のマークが出ていた。その一方で、大迫本人は冷静に言葉をつないでいる印象だった。
「僕はテレビの前で見る側として応援したい。勝ってほしいので、日本のために頑張ってほしいですね」
大迫はこう話しつつ、12日まで続くチームでのトレーニングで自らの肉体を鍛え、新シーズンに目を向けていくと話した。これはヴィッセルサポーターにとって、2023年への大きな希望になってくれるんじゃないだろうか。
ミックスゾーンでは、ヴィッセルの他の選手にも大迫についての質問が飛ぶ。「サコ(大迫)の判断ですしね」「本人に聞いていただくのが……。(記者が質問を詫びると)いえいえ、全然気にしないでください」とそれぞれを慮る様子を見届けて、取材は終わった。
「古橋っす、古橋」
帰りは最終の新幹線だったので、ビアバーに入って時間を潰す。すると隣には「シーズン反省会」をしている若い神戸サポ。こんなふうに切り出した。
「僕にとっては2人選ばれなかったようなもんなんすよ」
あれ、酒井高徳は代表引退しているけど? とこちらが一瞬考えたのを見透かしたように「古橋っす、古橋」と食い気味に、こんな感じで話し続けた。
「ワールドクラスのイニエスタが来てくれたでしょ。そこから岐阜から来た古橋が、イニエスタとのいい連係でゴールを量産するようになった。J2から這い上がって神戸で活躍して、セルティックに行ってエースになって……それだけでもサポーターやっててホント嬉しかったんすよ。でも結局古橋も、ヴィッセルに来てくれた大迫も選ばれへんかった。メッチャクチャ切ないです」
出発となってお礼を伝えると「酒の肴の話だけど記事に書いてください、本音なんで」とも彼は話した。様々なセンチメンタルな感情が入り混じったのは、W杯メンバー発表後の最終節だったからなのかも……そんな2022年J1の締めくくりだった。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。