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敗れた相手も思わず「お前の蹴りヤバイだろ」…皇治戦での炎上から一転、ムエタイ伝道師・梅野源治はなぜRIZINで“覚醒”したのか
posted2022/11/01 17:00
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
RIZIN FF Susumu Nagao
「皆さん、学んでいただけました?」
試合後のインタビュースペースにやってくると、梅野源治は開口一番そう言い放った。『RIZIN.39』(10月23日・マリンメッセ福岡A館)で組まれたトレント・ガーダム(豪)とのムエタイルールでの一騎討ち。試合開始早々、梅野は左ローキック一発でガーダムの右足を破壊。1Rわずか21秒で勝ち名乗りをあげた。
ムエタイにおける梅野の輝かしい戦績とは
試合後、梅野は「あれはローキックというよりカーフキック」と打ち明けた。
「試合前に結構練習していました。それがドンピシャで当たったかなと」
カーフキックとは、ここ数年MMAや立ち技格闘技で流行中の、ふくらはぎの急所を狙った蹴りを指す。梅野は「練習のときからこれで何人も倒してきたので」と続けると、独演会の火蓋が切られた。
「本来はヒジをみんなに見てもらいたかったので、そこまで出せなかったことは残念ですけど、結果(TKO)としては良かったかなと」
RIZINにとっては4年半ぶりとなる博多大会でガーダムとの一戦が発表されると、梅野はムエタイならではのヒジ打ちの怖さを強調した。そうすることで、自分のベースとなるムエタイを最もアピールできると考えたのだろう。
現在のキックはヒジ打ちが禁止され、首相撲からのヒザ蹴りが制限された“モダン系”と、いずれの攻撃にも制限がかからない“トラディショナル系”に大別される。ムエタイはトラディショナル系のルーツとなるタイの国技だ。巷では「判定決着が多い」「判定基準がわからない」といったネガティブな認識も多いが、少しでも見方がわかると、これほど奥の深い格闘技もない。判定決着が多いのは確かながら、それはムエタイがギャンブルとして成り立っている側面があり、最後の最後まで競り合った末にわずかな差で勝利を手中にするという勝ち方が一番の美徳とされているからだ。
そうした中、梅野は“倒すムエタイ”を実践してきた。わけても2015年5月10日に名古屋で行われたムアンタイ・PKセンチャイムエタイジム戦は、梅野の言葉を借りると「やばいだろ!」と叫びたくなるほどの激闘だった。