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「スパイクを打ちたくなかった」石川真佑は世界バレーでなぜ爆発できた? 超マジメな22歳に響いた“木村沙織の言葉”と“眞鍋監督の提案”
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byFIVB
posted2022/10/28 11:01
“大きな壁”を乗り越えて世界選手権で存在感を発揮した石川真佑(22歳/東レアローズ)。五輪予選を見据えて、Vリーグでのさらなる飛躍を誓った
中国のブロッカーと交錯して転倒した古賀の姿を見た瞬間、嫌でも昨夏の記憶がよみがえった。
突如出番が巡ってきたが、それは気負いよりも緊張よりも、石川に覚悟を芽生えさせた。
「東京オリンピックのことを思い出しました。(東京五輪では)急遽(石井)優希さんが入ってきて、全員で『勝とう』という気持ちがあったけれど、セルビア戦もブラジル戦もうまく回らなかった。同じ繰り返しはしたくない、って思ったし、何より今年のチームは目に見えないつながりをすごく大事にしてきて、その中心にいたのが紗理那さんだったんです。私が入って、紗理那さんの代わりになれるかはわからないけれど、比べるのではなくて、紗理那さんが今までつくってきてくれたものを、自分のできる範囲でやる。思いとか、プレーとか、自分のやるべきことをしっかりやることでつなぎたい。そう思って入りました」
「彼女のルーティーンを崩そうと思った」
そして、もう1つの“会話”がさらに好循環を生む。スパイクヒットする際の力強い音や得点を決めた後の笑顔、そして相手をまっすぐ見据える眼光の強さ。目に見えてわかる石川の変化はいくつもあったが、大きく変わったのが髪型だ。
それを促したのは、日本代表を率いる眞鍋政義監督だった。
日々の練習や試合、生活習慣を見守る中で、眞鍋監督の目についたのは石川の生真面目さ。食事も「欲」より栄養を重視し、メニューも基本的には変えない。食事のみならず、練習前後のストレッチを含めたセルフアップ、クールダウンも最初から最後までほぼ同じメニューを毎日同じように行う。もちろん髪型も「大会中はこれ」と決めたら日ごとに変えることもしない。
ひたすら純粋にバレーボールへ打ち込むのは、素晴らしいことではある。だが、むしろその頑なさと生真面目さが仇になっているのではないか。何かきっかけはないか。そう考える眞鍋は「ふとひらめいた」と明かす。
「(30日の)ブラジル戦前日に石川へ『明日、大事な話があるから』と伝えて、翌日『ポニーテールはどうや』と言ったんです。このままでは活躍できないのではないか、何か爆発力を与えるために、彼女のルーティーンを崩そうと思ったんです」
たかが、髪型。そう見る人もいるかもしれないが、実はブラジル戦の勝利は眞鍋が打った布石の賜物でもあったことを、石川が明かす。
「眞鍋さんって、常にポジティブなんです。うまくいかない時でも話すたび眞鍋さんは前向きで、こういうポジティブさが大事なんだな、って。だから『髪型を変えてみたら』と言われた時も変えてみようかな、と素直に思えた。やってきたことを崩すのは怖いけど、うまくいかなかったらそこでまた新たな気づきがあるからいいんだ、と思えるようになりました」
前向きな気持ちの象徴である三つ編みにしたポニーテールは、先輩選手から「ラーメンマン」「モンゴルマン」といじられた。それでも開幕当初は不安が先行していた世界選手権に、大会中から新たな心持ちで臨むことができた。