そして福岡へ出発する前日の夜中、事件が起こる。台風21号が富山に上陸し、田畑建工が棟上げした家が倒れてしまったのだ。

「あぁ……こりゃもう行けねえだろうなぁと覚悟したんです。うちだけじゃなく近所の人たちまで復旧作業を手伝っているのに、僕だけ抜けてテストに行くわけにはいかないでしょう。そしたら親父が言うんです。『お前は行って来い』って。それでテストを受ける意義が全く変わりましたよね。記念受験的なものから、この人らの思いに応えるためにも、自分の100パーセント以上の力を出してでも、なんとかせなあかん、という気持ちにね」

　約200人を集めたダイエーの入団テスト。そこに挑んだ田畑は自分でも驚くほどのパフォーマンスを見せる。50メートル走は「人生で後にも先にもこんなに速く走ったことはない」というタイムを叩きだし、遠投をやれば雁の巣球場の122メートルあるセンターバックスクリーンを直撃。一次試験を悠々クリアし、ブルペンに入ると、ここでも絶好調。翌年から正捕手となる吉永幸一郎がたまたま来ていて、田畑の投球を受けて大絶賛してくれるという幸運もあった。

　結果は合格。その後の91年のドラフト会議で最下位指名された。

1991年ドラフト会議でダイエーに10位指名された田畑一也（一番右、当時22歳）©︎KYODO

　ちなみにパンチョ氏が読み上げた所属先が「元北陸銀行」ではなく、「田畑建工」だったのは、「お父さん、お母さんが喜ぶだろうから」という池之上スカウトの粋な計らいだったとか。

（つづく）

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