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「落合さんには打たれていいけど…」若き松井秀喜の穴を攻め切った「仰木マジックと専用左腕」とは〈日本シリーズ秘話〉

posted2022/10/25 11:02

 
「落合さんには打たれていいけど…」若き松井秀喜の穴を攻め切った「仰木マジックと専用左腕」とは〈日本シリーズ秘話〉<Number Web> photograph by Sports Graphic Number

際どいボールをよける松井秀喜。オリックスは「シリーズから消す標的」として攻めてきた

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鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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チームの「顔」たる強打者は何としても抑えねばならない。絶頂期にあったシリーズ男に対する苦心のリード、卓越した技術を誇る天才ヒットマンヘの陽動作戦、巨人の若き主砲に用意した必殺のワンポイント――。シリーズの命運をかけた頭脳戦の舞台裏に迫る。Number838号『<知略の限りを尽くして>最強打者を封鎖せよ 清原和博/イチロー/松井秀喜』より全文掲載します!(全3回の「松井秀喜」編/清原編イチロー編も)

 1994年に伝説の10・8決戦で中日を下しセ・リーグの覇者となった巨人は、その年の日本シリーズで森祗晶監督率いる西武を破り、念願の日本一に返り咲いた。

 その年、プロ入り2年目だった松井秀喜は、シリーズでは第4戦で2ラン本塁打を放ったものの、6試合で25打数6安打の打率.240という成績に終わっている。

「あの頃の自分を思うと、やっぱりガキでしたよね。もちろんシリーズの重さとか、勝負の機微とかは分かってはいたんです。でも、その理解にまだ奥行きというか、厚みがないままにプレーしていたような感じがします」

「落合(博満)さんには打たれてもいいけど」

 それから2年が経った1996年。松井はすでに主軸打者に成長し、レギュラーシーズンでは打率.314、本塁打は38本を記録した。そして長嶋茂雄監督率いる巨人は最大11.5ゲーム差をひっくり返す“メークドラマ”で逆転優勝を果たして、日本シリーズに駒を進めた。

 相手は仰木彬監督率いるオリックス・ブルーウェーブ。そこにはプロ5年目にして3年連続首位打者と最多安打などのタイトルを獲得していたイチロー(現ニューヨーク・ヤンキース)がチームの顔として君臨していた。

 この頃になると松井は、シリーズの重みや自分のチーム内での役割というものを多少、意識できるようになっていたという。

「それで野球が変わることは一切ないですけど、自分に対する責任感というのは2年前に比べるとはるかに分かっていたと思います」

 そういう意味では、松井が初めて巨人の主軸打者としての自覚を持って臨んだシリーズが、'96年のオリックス戦だったわけである。

 このシリーズでオリックスの主戦捕手だった高田誠(現巨人ブルペンコーチ)は言う。

「あの年は開幕前からイチロー対松井の日本シリーズと騒がれていた。松井を乗せたらシリーズの流れを持っていかれてしまうので、落合(博満)さんには打たれてもいいけど、松井にだけは打たせちゃダメだと思っていました」

高田が見極めていた「その時点での松井の穴」とは

 高田は松井の実力を認める一方、打者としての「穴」も冷静に見極めていた。

【次ページ】 不思議だったのは、仰木さんが野村を…

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